日本中を熱狂させた「金農旋風」
実際にそれを思わせるようなこともありました。2018年の夏に日本中を熱狂させた「金農旋風」です。
秋田県立金足農業高校が、毎年甲子園に出場するような強豪校を次々と倒して、ついには名門・大阪桐蔭高校との決勝に進んだという快進撃です。

この原動力となったのが、エース・吉田輝星投手の力投でした。全国から有望な選手が集ってくる私立の強豪と違い、金足農業は全校生徒500人程度の大きくないサイズの公立高校です。当然ながら選手層は生徒数に比例するので厚くはありません。吉田投手は秋田県大会から連投に次ぐ連投で、甲子園の準決勝まで10試合連続で完投勝利を挙げていたのです。
この吉田投手の魂の力投ともいうべき姿は、日本中に感動を与え、スポーツの素晴らしさを伝えることになったことは言うまでもありません。
「都市部と地方の格差」が負担を生む
しかし、その一方で、僕の中では、金足農業と大阪桐蔭の決勝というのは、先ほどから申し上げている、日本が直面している「都市部と地方の格差」を象徴する出来事のように思えてなりませんでした。
金足農業のある秋田県の人口は約94万人。一方、決勝で戦った大阪桐蔭のある大阪府の人口は約880万人。それに比例して高校野球の競技人口も多い中で、大阪桐蔭の選手層の厚さを支えているのは、府外からスカウトした生徒たちです。プロ野球選手を多数輩出している私立の名門ということで、日本全国から地域のトップレベルの球児たちが集まってくるからです。練習設備も充実しており、専門の指導者もついています。
甲子園ファンからすると、こんな圧倒的な格差をグラウンドでひっくり返すのが高校野球の醍醐味だということになるのでしょう。もちろん、そこがスポーツの大きな魅力のひとつであることは、僕自身も経験してきたことですので否定はしません。
ただ、そのような試合的な楽しみとは別に、「ゆがみ」があることも事実で、僕にはそれが残酷さを楽しむコロッセオ(古代ローマ時代の円形闘技場)のようにさえ感じてしまいました。それを象徴するのが投手への負担です。
金足農業快進撃の立役者である吉田投手は、大阪桐蔭との決勝では下半身の力が入らない状態となって、12失点して5回でマウンドを降りました。ここまでの連投がたたって左股関節を痛めており、それをおして登板していたのですが、決勝でいよいよそれが限界になってしまったのです。吉田投手が大会で投げたのは881球。予選の秋田県大会5試合の636球を足すと、この短い期間に灼熱地獄のような夏の大会で1517球をたった1人で投げ抜いたのです。
一方、大阪桐蔭はというと、先ほども申し上げたように選手層がプロ野球チームのように厚いので、予選からたった1人のエースが投げ切ることなどありません。先発、リリーフの投手たちは十分な休養を取って、その時にベストなパフォーマンスを出せる投手が登板していくという継投策が採られています。