広がるスポーツの地域格差「アンフェアな甲子園」が証明するモノ

今こそ知りたい! 「方法論」より「目的論」(6)
安田 秀一 プロフィール

高校野球の「目的」に立ち戻れば

言うまでもありませんが、高校野球はプロ野球のように、ファンに対して鍛え上げたアスリートたちが高いパフォーマンスを見せて楽しませることを目的としたものではありません。高校生が野球を通じて社会人として、人として必要なことを学んでいくという教育的な役割を謳っています。そのように「目的論」によって高校野球の本質に立ち戻ったときに、果たしてこの「都市部と地方のゆがみ」を放置したままでいいのでしょうか。

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もちろん、先ほどの公立と私立の環境差、投手への負担に格差が生じているなどの問題については、甲子園大会を主催する日本高等学校野球連盟や朝日新聞社、毎日新聞社でも改善すべきだという声があり、改革の必要性が唱えられています。実際、2021年の春の選抜大会からは「1週間で500球以内」の球数制限が実施されるようになりました。

 

しかし、これまでお話をしてきたように、甲子園出場校同士の格差の根底にあるのは、戦後復興フォーメーションを70年以上も続けてきたことによって生じている「都市部と地方のゆがみ」だと思っています。この構造的な問題に手をつけないことには、どんなに甲子園改革を進めても「対症療法」で終わってしまうのではないかと心配しています。

日本社会のいびつな格差

このような問題が起きているのは、甲子園に限ったことではありません。少子化と地方の衰退というダブルパンチで、あらゆるスポーツで地方の競技人口がかつてよりも減少傾向にあります。人数が足りなくなって存続の危機にあるような少年野球など、練習も難しいチームも全国には数多くあると報道されています。しかしその一方で、都市部のスポーツチームには多くの子どもたちが集い、レベルの高い指導者のもとで厳しい競争が行われています。都市部と地方のスポーツの格差は年を追うごとに広がっているという指摘も多くあります

こうした状況は地方の経済や雇用の疲弊ぶりとそっくりに感じてしまいます。とくに地方都市では、若者の流出が問題になっています。高校を卒業したら東京や大阪などの大都市圏の大学へ進学するために、地元を離れてしまう。そして、卒業後も希望職種や賃金などの労働条件から、故郷に戻ることなくそのまま大都市に残って生活をしてしまいます。

その中には、そのまま結婚して家庭を持つ方もたくさんいるはずなので、当然都市部はどんどん人が増えて、地方は人が減っていきます。人が減れば経済も活性化しません。産業も成長しませんので雇用も拡大しません。このような悪循環が地方で起きていて、これが日本経済がいつまでたっても元気がない原因だというのは、多くの経済評論家などの有識者が指摘していることです

そのような意味では、スポーツは今、日本の地方が直面している苦境をだれの目にもわかるようなかたちで浮かび上がらせている、「日本社会の縮図」と言えると思っています。

▽本記事は安田秀一著『「方法論」より「目的論」「それって意味ありますか?」からはじめよう』より、一部抜粋して構成されています(予約受付中)。
序章    「そもそも、それって意味あるんですか?」に立ち戻る
第一章    強烈な目的意識が「スーパー日本人」をつくる
第二章    なぜ一流のビジネスパーソンは筋トレやマラソンをするのか
~個人の目的論~
第三章    「なぜそれをやるのか」を知っているチームは強い
~組織の目的論~
第四章    「戦後復興フォーメーション」からの脱却
~日本の目的論~
第五章    「成功」よりも「幸せ」を選ぶ生き方 ~人生の目的論~

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