これは「面倒だから近場で済ませよう」という通常の人間が持つ心理の表れともいえるが、くわえて、当たり前だがタワマンに住む人は、そのタワマンが好きで購入したのだから、タワマン内で過ごすことを好む。タワマンというのは一種の「鎖国」であり、実際にそのなかで生活が完結できるのだから、住民はますますその「鎖国」の内に囚われることになる。
先の祐子さんの例でいえば、子どもを連れてタワマンの外の世界に飛び出していれば、そのようなカースト思想に囚われずに済んだかもしれない。タワマン内のキッズスペースではなく、地域の開かれた児童館や公園で子どもを遊ばせ、さまざまな属性のママ友と知り合っていたら、彼女の「上昇志向」はそこまで悪化しなかった可能性は高い。
タワマンというのは、その構造上、どうしても「上」と「下」が存在する。それは高さという物理的な面のみならず、価格という面にも色濃く現れる。「上下」という意識を持たない住民もいるが、その意識の強い住民もいるわけで、カースト発生の芽はつねに存在する。しかし、タワマンの外の社会で過ごすことで、「上下」という視点ではなく、より平面的な視点を育むことができるかもしれない。
「タワマンの世界」がすべてと思わないこと。タワマンはあくまで「住む家」であり、「住む世界」ではないということ。これからタワマンを購入しようと考える人には、そのことをしっかり覚えておいていただきたいと、タワマンカーストにまつわるトラブルの話を聞くたびに、そんな思いをひしひしと強めている。