西浦博教授が描く「私が最も恐れ、怯えているシナリオ」の“中身”

デルタ株はどれだけ危ないのか
西浦 博 プロフィール

いま、デルタ株の流行拡大を受けて、「あの頃と同等に対策しなければならない」という声も聞かれる。もしも、7割5分くらいの実効再生産数の減少があるとどうなるだろうか。実は、最も低いとされるデルタ株の基本再生産数の想定値を使っても、5.0×(1-0.75)=1.25であり、いまだに1を上回ってしまう。もちろん、それより高い6.0が基本再生産数だと6.0×(1-0.75)=1.50である。5.0だと8割削減に成功したとしても、新規感染者数は良くて横這い程度になるに過ぎない。

要するに「8割削減では減らない可能性がある」ということである。

今後、成人の希望者における予防接種が完了するところまで緊急避難的に感染リスクを小さく保って走り抜けたいならば、上記の計算からすれば、1日でも早く横這いかそれ以下の状態にして、予防接種が希望者全員に行き渡るまでに流行レベルを低く維持することが少なくとも求められる。そのほうが、いま爆発的に流行が起こってしまうよりもトータルの死亡者数は少なく済み、医療への負荷も小さく済むだろう。

しかし、それほどの危機感はまだ共有できていない。政治家はこの段階でロックダウンの法制化について「議論したらいい」などと悠長なことを言及する状態である。対策に関わっていても、残念ながらオリンピックの全日程がほぼ終わるところまでラジカルな対策が実施されにくい。そこまでにどれくらいの被害になった上で横ばいにできるのだろうか、胃が痛くてならない。

デルタ株の流行が起こって以来、ロックダウンによって流行が明確に減少傾向に至ったのはインドとスリランカだけである。しかし、インドでは多くの地域が伝播の起こりにくい夏場の気温に移行する中で、人口の7割前後が自然感染などによって既に免疫を持ちつつ、ロックダウンして制御されたことが知られている。デルタ株の基本再生産数が仮に5.0だとすると、免疫を持つ人口の実効再生産数が5.0×0.3=1.5の状態でロックダウンしたわけであって、それだけの被害を出した後なので制御できただけかも知れない。

台湾やシンガポールではデルタ株の感染をクラスターレベルで封じ込めすることに一部成功している。この感染症は絶滅確率が高いことは従来株から周知のことであり、その特性は変異株でも維持されている。封じ込め努力に加えて感染者数の実数が少ないことの助けを借りることができたのかも知れない。

他方、日本ではもう十分すぎるだけのデルタ株の感染者数がいて、確率性に頼って消えることを期待することは国レベルでは難しい。他の国に目を向けてみても、あの優等生であったオーストラリアが苦戦しており、シドニーもロックダウン延長に踏み切るなどしている。シドニーではロックダウンに反対するデモが起こっており、どの国も苦労していることが理解される。

 

私が最も恐れるシナリオ

仮に日本でも時限的に都市封鎖(ロックダウン)が実施されたとする。その時に私が最も恐れているのは、それでも新規感染者数が持続的な減少に至らないことである。

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