2021.08.06
# ジェンダー

トランスジェンダーの著者が“セクハラ被害”を受けて味わった壮絶すぎる「地獄の苦しみ」

阿部 裕華 プロフィール

――本作に関しては、トランスジェンダーの方に取材しようという考えも?

ぺス山 しようと考えていましたけど、結局できなかったんです。それは取材がNGだったわけではなく漫画の〆切を優先した結果、取材できなかっただけですが(笑)。

とはいえ、私の小学生の頃からの友人や、ほかの知り合いにもトランスジェンダーの人はいましたから問題ありませんでした。むしろ、高校の同級生だったゼラチンのようなTHE・シスジェンダーの人は未知の存在でしたね。怖くて周りをマイノリティな人たちでガッチリ固めていたので、逆にシスの人たちと話す機会が限られていたんです。トランスジェンダーの人は日常的に触れ合う機会が多かったので、そこまで描くのに困ることはなかったです。

――ご自身の胸の中に抱える感情と身近な方への取材以外で、本作の参考にしたものはありますか?

ぺス山 あったのかもしれないけど、パッと出てこないですね……。一番大きかったのは身近な人との会話ですね。担当編集のチル林さんとは毎話の打ち合わせとして長時間電話していました。人と話していると「あ、ここにこんな鍵があったのか」と気づくので、分からない時や困っている時は、チル林さんを含めて人から投げてもらう質問や疑問頼りで描き進めていくことが多かったかもしれません。

『女の体をゆるすまで』第4話より ©ペス山ポピー/やわらかスピリッツ/小学館

下手にエンタメにしすぎないように

――様々な反応が寄せられるのは想定して描かれていたと思いますが、その中でぺス山さんが特に意識していたことは何だったのか教えてください。

ぺス山 この漫画を描くことでの懸念点が自分の中には大まかに二つありました。
一つはセクハラを告発することでの単純なバッシング。とはいえこれに関しては、あっち(X氏)が悪いのは明らかだし、掲載している「やわらかスピリッツ」のコメント欄を承認制にしたこともあって、傷つきはしたけどそこまで意識しなかったかもしれません。

それよりもう一つ懸念していた、トランスジェンダーに関連する権力勾配。これはすごく難しい問題だと思いました。女性と男性、二つの性別の間には権力勾配がある。女性から男性になりたいと言うと権力を上っていく構図にも見えかねない。

トランスジェンダーといえど、そこにはいろんな意味が含まれます。私がいくら小さい頃から男の子に憧れていた、ジェイムズ・ヘットフィールドになりたかったと言っても「そういう女の子もいるよね」と言われたら、そこで話しは終わりになってしまう。

私の中では、鏡を見た時に、思い描いている自分の体ではないという確実な感覚を持っていても、それに対する説得力を持った的確な表現が見つからない。これはもう性自認でしかなく、極めて説明が難しいんですよ。

しかも、「人に暴力を振るわれるのが好き」と倫理的に危ないことを言うすごくマイノリティの人間が、性別の権力勾配の間を行き来する構図を見せる。上手く伝わらないことによって、意図しない権力勾配の見え方になる可能性もありますよね。だから、性別の間を渡り歩いている人間として、漫画の中で「自分はこうです」と言うことへの懸念がめちゃくちゃありました。

それでも描きたいことだから描く、という感覚で描き進めていたかな。ただ、ものすごくテーマが大きいから、下手にエンタメにし過ぎないように意識していましたね。

 

――とにかく自分の中にあるものを発散したかった。

ぺス山 ちっちゃい頃から周りの社会に対して、「私のために何をしてくれているの?」「何もしてくれないのに、なんで私が社会に貢献しなきゃいけないんだよ」とハッキリ思っていたんですよ。そんな私がまずできることって自分のために漫画を描くこと、自分が自分を優先している姿を漫画で見せること、そこを優先しないとと思っていました。

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