多くの問題で意見が異なり、少なくとも僕が暮らしている限りにおいてはおよそ接点が生まれそうにない人々との間には川がある。その川を渡って会いにいき、彼らの「側」から見える社会を取材し、描きたい……。
インターネットの世界はしばしば、二極化します。しかし、現実の世界は二つの極で描けるような単純なものではありません。複雑な事象を複雑なまま描き、しかも本や雑誌を手に取る、あるいはインターネットの世界にいる健全な知的好奇心を持った人々に届けるためにどうしたらいいのだろうか、と。
「良いニュース」とは何か
僕はこの本のなかで、変わっていくことよりも変わらないものを見極めることの大切さを書きました。新聞、出版、インターネット、テレビ・ラジオと多くのメディアで仕事をするなかで一つ見えてきたことがあります。それはニュースの世界の基本ともいうべきものです。
ノンフィクションの世界にも通じることですが、僕は「良いニュース」には五つの要素があると書きました。謎、驚き、批評、個性、思考です。社会の「謎」に迫り、「驚き」を与えるだけでなく、そこに「批評」が宿り、簡単にまねのできない「個性」があり、さらに読んだ人にとって「思考」する時間を提供するようなもの。それが良いニュースなのだと考えています。
これは、新聞でもインターネットでも、映像や出版でも関係なくあらゆるメディアに言えることだと思うのです。僕はずっと良いニュースを出したいと思ってきました。