体よりも心のマッサージ効果
――ご友人はなぜレズビアン風俗を利用したんですか。
大木:『MILK』では楓が既婚男性との不倫に疲れてレズビアン風俗を利用しますが、私の友人も恋人男性のひどい裏切りにあってしまって……。この絶望的な気持ちやさみしさはきっと女性にしかわかってもらえない。そう思ったのが、彼女が利用したきっかけだったそうです。
「つらい恋を忘れるには新しい恋をするのが一番」なんて言葉を耳にしますが、それってちょっと紋切り型のところがあると思うんですよね。
たとえば体だけの都合のいい関係にされてしまったり、パワハラ・セクハラみたいな状況になってしまったりして傷つき、新しい恋に踏み出せない女性だっているはず。そんな人たちに、全ての傷が癒えることはないにしても別の解決方法を提案できればと思いました。
“風俗”とつくと性的行為ばかりを連想しがちですが、レズビアン風俗にはお茶をしながらおしゃべりするだけのデートコースもあります。
友人や、執筆前に取材させていただいたお店の方の話によると、男性が恋愛対象の女性の利用も多くて、それも「生活に疲れた」「会社が嫌」「彼氏とうまくいってない」「結婚間近でちょっとマリッジブルー」といった、性欲というよりは「癒し」を求めて訪れるそうです。

――たしかに、時には「友達よりも自分のことを知らない人」のほうが悩みを吐き出すことができたりもします。
大木:『MILK』に登場するような風俗のお店で働くキャストさんたちも同じ女性として気持ちを理解しているから、受け入れ態勢も万全なんだそうです。お客さんがなぜ利用したのかを考え、「手をつないでいいですか」とか「されたくないことはなんですか」などと細やかに尋ねて、嫌なことはしないし聞かない。優しく接することを心がけているといいます。
さらに、利用客の女性にも数多く取材したところ、もちろん女性だからこそわかる気持ちいい部分だったり、男性には理解できない快楽だったりと、性的な満足感も与えてくれるのだそうです。
でも、いろいろな方の話を聞いていると会話だけでも癒されるし、肌の温もりから安心感が得られるという。体よりも心のマッサージ効果がとても大きいんです。
私は取材を通して、性的な面での連帯ってとても自然だし、大切なことだと感じたので、もっと多くの女性に知ってほしいと思い、『MILK』のテーマの一つにしました。