ロンドンに住むイラストレーター クラーク志織さんの連載「イギリスのSDGs事情ってどうなのさ?」。イギリスの人たちがSDGsの理念を日々の暮らしにどう取り入れているのかを、パンチの効いた軽妙なタッチのイラストつきでレポート! 笑いと学びのつまったコミックエッセイです。

今回取り上げるのは、実際に差別を経験したことのあるというクラーク志織さんが考える“アジアンヘイト”について。コロナ禍を受け露呈しつつあるアジア人差別。「受けたことがない」という人、果たしてそれは本当?

「私は差別される側の人間だった」

イギリスに移り住んでもうすぐ10年。私が暮らすロンドンは、マルチカルチャーが根付く街。アジア人と白人のミックスである私は、ルーツが原因で嫌な経験をしたことはないと感じていたし、「ロンドンに人種差別はほとんどない」と思って過ごしてきました。というか、正直なところ、人種差別というものは「黒人やイスラム系の人々に降りかかる災難」のように思っていたところがあり、心のどこかで「アジア人は白人と同じ側にいるから差別されない」と他人事のようにも感じていました。

でも、パンデミック発生をきかっけに、それは完全に勘違いだったと気づいたのです。

2020年2月、コロナウイルスのアウトブレイクがニュースで大きく取り上げられ始めると「電車で誰も隣に座ろうとしない」「道端で『ウイルスだ!』と言われた」などといった話をアジア系の友人から頻繁に聞くようになりました。また、アジア系移民が街中で誰かに殴られたというような話もSNSなどで大きく取り上げられると同時に、
多くのアジア系移民が自身の受けた差別的な経験をSNSなどで「STOP ASAIAN HATE」という言葉とともにシェア。パンデミックが始まる前から差別は存在していたと打ち明ける人もたくさんいました。

 

なんだかアジア系の人々を取り囲む雰囲気が突然ガラッと変わってしまったような気がして、私はとてもショックを受けました。「そっか、そうだよね、私は、差別される側だったよね」と急に我に返ったような気も......。

イギリスやアメリカでは、日本、中国、韓国などの東アジア人はエスニックマイノリティーの中でも物静かで順応かつ勤勉、所得も高く、白人コミュニティーに馴染んでいる「模範的な移民」といったイメージを持たれています。

けれど、今回のパンデミックによりそのステレオタイプの裏に隠された問題点が露呈したように思います。「模範的な移民」。それは、あくまでも白人の脅威にならない程度に順応に従う、そういった条件付きでアジア系移民は社会から認められているだけだと多くの人が指摘。

怒らない、騒がない、といったイメージがあるからこそ、指で目尻を吊り上げたり、日本人女性と聞くとゲイシャを連想したり、セックスシンボルに捉えるなど、数々の偏見が現代になっても問題視されずに存在するのです。そしてこれらの偏見は多くのアジア系移民を苦しめている原因になっていると言います。