定期的な検診は健康保持のカギ―私たちは漠然と、いや、心からそう信じ切っている。しかし、その常識は本当に正しいのか?
医療統計学などの専門家で、新潟大学医学部教授(予防医療学)の岡田正彦氏はこう言い切る。
「じつはがん検診の効果を真っ向から否定するデータが存在するのです。結論から言えば、がん検診などの検査を定期的に受けても寿命は延びません。それどころか、寿命を縮めるという結果すら出ているのです」

岡田教授の言うデータの嚆矢は、約20年前にチェコスロバキア(当時)で行われた、肺がん検診の実効性を調べるための大規模追跡調査だった。
この調査では、健康な男性を集め、年2回の肺がん検診を3年続けて受けるグループと、検診を受けないグループに分けて観察した。検診内容は、胸部レントゲン写真と喀痰細胞診(顕微鏡で痰の中のがん細胞を調べる方法)だ。
3年間の観察終了後、その後の健康状態を調べるために、さらに3年間、両グループの人たちに年1回ずつの胸部レントゲン検査を受けてもらい、肺がんの発症率を調べた。結果は驚くべきものだった。
「普通に考えれば、きちんと検査を受けてきたグループのほうが、そうでないグループより肺がんになる割合も、死亡率も少なくなるはずです。ところが、結果は逆でした。検診を受けていたグループのほうが多く肺がんになり、より多くそれで死亡していたのです。
それだけではありません。この調査では、あらゆる死亡原因に関するデータが集められていましたが、肺がん以外の病気で死亡した人も、検診を受けてきたグループのほうが明らかに増えていました。つまり、"肺がん検診を受けると寿命が短くなる"という結果になったのです」(前出・岡田氏)
この調査結果は当初、「単なる偶然」「何かの間違い」などと、多くの専門家の批判にさらされた。だが、同じ頃、先進医療大国のアメリカを含む各国でも同様の大規模調査が行われ、まったく同じような結果が出たことで、大勢は決した。つまり、「肺がん検診を受けると寿命が短くなる」ことが、実証されたのだ。
日本人だけが信じるウソ
一方、日本では世界とは逆の流れが起きていた。チェコスロバキアの調査から10年ほどたった頃、厚生労働省の研究費による調査が行われた。その結果と結論は、マスメディアにも大々的に発表された。「毎年、肺がん検診を受けると、肺がんによる死亡率は半分になる」と報道されたのである。
「この日本の調査は、検診を定期的に受けるグループと、受けないグループに分けて追跡調査を行ったものではありませんでした。肺がんで死亡した人が、過去3年間に検診を受けていたかどうかを調べただけの不完全なものであり、そもそも調査の目的が『肺がん検診の有効性を証明する』ものだったのです。毎年の肺がん検診で死亡率が半分になるというのは、明らかなウソです」(前出・岡田氏)