がん治療の大前提とされている「早期発見、早期治療」というキャッチフレーズも絶対的なものではなく、科学的根拠はないという。
「前述のチェコスロバキアやアメリカのデータがそれを実証しています。また、エックス線による被曝や、薬の多投与など、現代医療の過剰な検査と治療により、たとえその病気が早期発見によって治ったり、症状が治まったとしても、薬の副作用などで別の病気を起こしている現実があります。総合的に見れば、がんの早期発見、早期治療が人の一生の健康にとって絶対とは言えないのです」(岡田氏)
人間ドックに入った方なら経験があるだろう。すべて正常数値、ということはまずありえない。前述の『人間ドックの現況』には、全受診者の90%以上が何らかの異常数値を指摘されている、と記されている。人間ドックはある意味、「病気のお墨付き」をもらうために行くようなものなのだ。
東京・足立区で長年在宅医療に従事してきた柳原ホームケア診療所所長の川人明医師も、こう話す。
「従来は正常の範囲だった数値が、近年では国の生活習慣病対策に合わせて『異常』や『要注意』にひっかかるようになっている。黄信号どころか、青信号の点滅や点滅前でも異常や要注意になってしまうのです」
地域医療で数多くの健康相談を担ってきた、天理よろづ相談所病院(奈良県)元副院長の今中孝信医師も、過剰な検査の弊害を憂う。
「人間ドックでがんが早期発見されることがありますが、ドックで見つかるがんは緊急性のないものばかりだということを見落としてはいけません。緊急性のあるものは、ドックにかかる前に発現しています。
ところがドックで一度でもがん細胞が見つかったら、緊急性がないにもかかわらず、すぐに治療を受けたり、経過をみる場合は、定期的に検査を繰り返すことになる。がんが"悪性"に変化していないか日常的に怯え、医者から『大丈夫です』と言われるまで、大変なストレスのもとで暮らすことになるのです」
レントゲン検査の危険性については前述したが、他にも、苦しい検査はたくさんある。がんの生検の傷がいつまでもジクジク痛むことがあるし、肛門からカメラを入れて検査する大腸へのファイバースコープ挿入は、大腸の大きく曲がっている部分に管を通すために熟練を要するので、未熟な医師がやれば受診者にとって非常に大きな苦痛となる。
これらのストレスが、本来は健康だった人を病人に変えてしまうケースが少なからずある―現場の医師たちは、そう力説してやまないのだ。
近年騒がれるようになったメタボ健診も、疑問だらけだ。読売新聞の医療担当記者で、『メタボの常識・非常識』の著書がある田中秀一氏が指摘する。
「メタボリックシンドロームの診断基準は8つの学会が共同で決めていますが、根拠に説得力がないため批判的な意見が数多く出ています。メタボ健診では血圧、血糖、中性脂肪などの値を測り、そこでひっかかると投薬となることが多い。