フェミニズムは社会の根底にあるもの

松尾 私は出版をフェミニズム運動だと思っているので、本を作る時は自分の問題意識が出発点になります。フェミニズムの出発点は常に自分、「私」ですから。同時に、フェミニズムの多様さやつながりを表現することも大事なので、古今東西のフェミニズムの本を集めて、その広がりを見せたいと、仲間2人と今年の1月に小さな書店もオープンしました。

松田 私も本を書いて出版することは、世界に小石をひとつひとつ置いていくような、そういう運動だと思ってやっています。小石もたくさんあれば、無視できなくなりますよね。社会に対する違和感や疑問を小説やエッセイという形で表現することで、こういう世界があるよ、こういう風に感じる人がいるよ、と可視化したい。

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松尾 一方で、アレっと思うことも少なくないですよね。海外のフェミニズム作品がどんどん日本に紹介されるのはいいのですが、権威ある男性翻訳者によって訳されることが多すぎます。また書評などで、明らかにフェミニズムが根底にある作品に対して、文学的に優れているという文脈で「フェミニズムを超えた」という解説がなされたりすることも。

松田 自分にとってフェミニズムは核にあるもので、同時に流動的で、どこにでも存在し得るものだと思っているので、「フェミニズムを超えた」というフレーズを目にするたびに、どうしてこんなことを言うんだろうってずっと不思議だったんです。最近、ある人が対談で女性作家の小説について「フェミニズムの枠にとどまらない」と話していて。それを読んで、フェミニズムを限定的な枠組みだと捉えているからだと気づきました。

松尾 フェミニズムは女性の人権の問題なのだから、超えたりとどまらなかったりするものじゃないはず。でもそれを「枠に閉じ込める」ことだと捉えてしまう人もいる。「ジェンダー平等」という言葉も日本社会ではうまく伝わってない気がします。国連が採択したSDGsのジェンダー平等の目標“Achieve gender equality and empower all women and girls”の和訳が、「ジェンダー平等を達成し、すべての女性及び女児の能力強化を行う」となっている。

松田 え? エンパワーメントが「能力強化」と訳されているんですか? おかしいですよ。もしかしてエンパワーメントの意味をわかってないんじゃないですか?

松尾 そうなんです。日本にはエンパワーメントを曲解している「偉いおじさん」が多いみたいで、知人の会社では社長がエンパワーメントじゃわからないからと、文言を「女性活躍」と言い換えたらしい。