「亭主元気で留守がいい」――テレビのCMから生まれたこのコピーは、1986年の新語・流行語大賞にもランクインした言葉だが、「夫婦というものは適度な距離感を保っているほうが長期的にうまくいく」というのは、令和の世でも変わらない「真理」だともいえる。
新型コロナウイルスが蔓延して以降、にわかに聞かれるようになったのが「コロナ離婚」というフレーズだ。
多くの会社でテレワークが導入され、夫婦ともに毎日ずっと自宅にいるせいで、近すぎる距離感からトラブルにつながるケースが多発している。
いわば一連のパンデミックの二次被害ともいえる悲劇だが、「家」という閉鎖的な空間で、なにが起こっているのか――今回の記事では、そんな「コロナ離婚の危機」という闇の深さをご紹介したい。

夫婦仲は決して悪くなかった、が……
「平日は自分の生活を楽しんで、週末は家族で過ごす。そのサイクルが突然崩れて、こんなにストレスが溜まるなんて思ってもみませんでした」
佐藤理恵さん(仮名・36歳)は、江東区のタワーマンションに暮らす専業主婦だ。理恵さんの夫である孝之さんは、2歳年上の38歳。勤め先のIT企業は、数年前に上場して業績は急拡大。孝之さんは営業本部長に就任し、収入は一般のサラリーマンに比べてかなり高額になった。
それを機に、理恵さんはそれまで勤めていた商社を退職。同時に孝之さん名義でローンを組んで現在の住まいを購入し、理恵さんは「タワマン暮らしの専業主婦」という身分を得た。
「正直な話、仕事に対してそんなに熱意はありませんでした。当時は子どもを保育園に預けて働いていましたが、ワーママ生活に疲れを感じていましたし。専業主婦になれる、憧れていたタワマンに住めるのですから、大満足でした」