SMの女王様の格好で行う漫談で人気を博していた芸人のにしおかすみこさん。認知症の母、ダウン症の姉、酔っ払いの父、そして一発屋の自分という家族を愛を込めて「ポンコツ一家」だと語る。そう語る理由を赤裸々に伝えていく新連載第1回の前編では、コロナ禍で家賃の安い家に引っ越さなければならなくなり、自炊道具も荷造りしてしまった時に「そうだ、久々に実家でご飯を食べよう」と思った時のことをお伝えした。

久々に帰った実家は砂だらけで、カーペットには埃が塊になっていた。ある程度雑然としていたとはいえ、知っている実家とは明らかに変化していたのだ。驚きながらも掃除をしようとし、あまりに汚いために「カーペットそのものを買い替えよう」と提案したにしおかさんに、にしおかさんの母は突然「余計なことするんじゃないよ!」と怒鳴り始めたのだ。

後編では突然母親に怒鳴られたにしおかさんの戸惑いと、決意についてお届けする。

女王様キャラだった頃のにしおかさん 写真提供/にしおかすみこ
装丁/鈴木久美 装画・挿絵/西淑
にしおかすみこ『ポンコツ一家』が書籍にまとまることになりました!13回までの連載を加筆修正の上、書き下ろし5編が加えられています。2023年1月18日発売!購入後、帯袖についているQRコードから感想をお送りくださった方の中から抽選で100名様に、人気イラストレーター・西淑さんによる「ポンコツ一家オリジナルマトリョーシカしおり」もプレゼント!
 

80歳の母とクッションバトル勃発

まだまだ何もわかっていなかったので、びっくりもあったが、腹がたった。

「はぁ? どんだけ掃除しなかったら、こんなことになるんだよ!」足元に落ちたクッションを拾い、手加減なしで、老人に投げつけた。
それを老人が拾いぶん投げてくる。強い。動けるじゃないかババア。

暗がりで、汗だくで。
はぁはぁ言いながら、ひたすら投げ合った。

Photo by iStock

昔から母は雑で四角い部屋を丸く丸く掃除するタイプだったけど。年々その円がどんどん小さくはなっていたけど。でもしてたよ。砂場じゃなかったよ。
私は、ただ実家でご飯が食べたかったんだよ。私の好きなきゅうりや人参の糠漬けはもう10年以上前にやめちゃってたけど。何でもいいんだ。母の作ったものが食べたかったんだよ。そうさ。中年の甘ったれさ。歯を食いしばったら、口の中まで砂の味がするじゃねえか。何だこの不毛な面白くない時間は。ダブルで砂を噛んだようってか。
何にも声にならない。何でだよ。ここ一番の愚痴が声にならないよ。

母が吠えた。
「あ―! もう嫌だ! 嫌だ! 嫌だあ!! 上等じゃねえか! 頭かち割って死んでやるー!」

ドスドスと怒りまかせに階段を踏み鳴らし、二階に上がって行った。