しかし、THE FIRST TAKEがここまで人気を集めた要因は、歌い出す前から歌い終わるまでの数分間にわたるアーティストの姿であって、その30秒のダイジェストはあくまでも副産物です。
深読みのしすぎかもしれませんが、THE FIRST TAKEというコンテンツの仕掛け・仕組み全体を表彰したいのだが、広告賞という建前がある以上、また広告制作者の団体という前提がある以上、30秒のWeb Movieの方を対象とする……といった関係者の苦肉の策のように思えます。

『ブレーン』誌10月号に掲載されていた今年度の講評にて、ある審査委員は、コロナ禍にあってTHE FIRST TAKEは
「その状況の中で具体的アクションを起こしたコンテンツの価値はもちろんだが、ネーミング、デザインに広告制作者の技術が果たした役割は大きいと思った。
FIRST TAKEの価値はそれがLAST TAKEでもあることにある。「時は戻らない」「一度きりのそのままをよしとする」「それでも生きる」ことをエンターテインメントとして鮮やかに昇華させていて、評価のレイヤーが一枚違うと個人的には思ったし、広告制作者の可能性を示してもらった気がした」
と語っていました。
私もその通りだと思いますし、別に審査結果にケチをつけたいわけではありません。ただ、「TCC賞もACC賞のように『広告』という枷を外せば楽になるのに」とは感じました。そうすれば素直に「THE FIRST TAKE(というフォーマット)を思いつき、企画・実現した人はえらいよね」と言えるのではないでしょうか。
広告業界で起きている“地殻変動”
今後、広告とコンテンツとの境はますます曖昧となっていき、広告制作者が、従来型の広告以外の仕事を手がけることがさらに増えていくでしょう。最近はあまり使われなくなった言葉でしょうが、新聞・雑誌・ラジオ・テレビをあわせた「マス4媒体」は、長い歴史を経て「広告/コンテンツ(=番組・記事)」の境界をとりあえず画定し、「広告とは何か」についての共通理解を社会に定着させてきました。