水俣病(※1)を世界に知らしめたフォトジャーナリストのユージン・スミス(※2)の元妻で環境活動家のアイリーン・美緒子・スミスさん(※3)が、田園調布学園という私立中高一貫女子校の生徒たちとオンラインで交流した。ジョニー・デップ製作・主演の映画『MINAMATA―ミナマター』(※4)の公開に関連しての特別授業だ。
田園調布学園では25年前から、実際に水俣を訪れ、水俣病について学ぶ学習活動が続いている。高1の4月からホームルームで、なぜ九州に行くのかを学び、現代文の授業では水俣病をテーマにした小説『苦海浄土』(石牟礼道子著)を扱う。今回の特別授業は、一般財団法人水俣病センター相思社が結んだ縁で実現した。
当時すでに心身ともに傷だらけだったユージンのジャーナリスト魂をアイリーンさんが奮い立たせたこと、彼女の献身的なサポートがあってこそユージンの水俣での活動が可能だったこと、そして彼女自身もユージンから写真を学び彼の分身として撮影を担当したことなどが映画では描かれている。

実際、ユージンとアイリーンさんが1975年に発表した写真集『MINAMATA』で使用された写真のうちおよそ3割はアイリーンさんが撮影したものだ。映画の主人公も、ユージンとアイリーンさんの2人である。20世紀を代表する写真界の巨匠と一心同体になって活動したアイリーンさんが、現代の日本の高校生に何を語るのかが知りたくて、私は田園調布学園を訪れた。

20代前半で水俣での肉薄を目撃できたことは宝物
講堂に高1と高3の全生徒が集まった。映画試写を鑑賞したあと、スクリーンにアイリーンさんが登場する。生徒たちからの質問に、愛らしい屈託のない表情で応答するアイリーンさん。心の底から発せられる嘘偽りのない言葉は、ネット回線を経由していても強力に胸を突き刺す。
「水俣のひとたちの勇気、自尊心、家族愛、それを支援しようとして集まってくる多様なひとたちが1つの大きな動きになっての肉薄を、21から24歳の間に目撃できたことは私のすごい宝物ですね。もう一つ、『学ぶ』ということをユージンから学びました。ユージンには教えるという雰囲気はありませんでしたし、私にも教わる意識はありませんでした。でもできるようになっちゃう。だからやっぱり成長するには、『これをなんとか成し遂げなければ』という動機が大切なんですね」(アイリーンさん)

水俣病を患いながらもたくましく生きる水俣の人々、そして水銀を含む工業廃水を垂れ流し続けたチッソという企業の実態に肉薄するユージンとアイリーンさんの仕事について詳細を語ることはここでは避ける。今回の映画および映画の公開に合わせて新版化された日本語版の写真集『MINAMATA』(※5)を見てもらいたい。たった数千字で私に表現できるような話ではない。
