EU、台湾へ向かう
そして9月14日、つまり中国による「TPP参加申請」発表の2日前、中国とEUの関係のさらなる悪化を予感させるニュースがあった。この日の日本経済新聞でも報じられているように、EUは近くまとめる初の「インド太平洋協力戦略」では、台湾との関係強化を打ち出すことになるという。EUはこの新しい「戦略」においては、半導体の調達や貿易投資関連の協力相手として台湾を明記し、事実上の関係格上げに踏み出すのである。
「台湾問題」に関する中国政府の一貫とした立場からすれば、もし今後、EUは台湾との関係強化に実際に踏み出せば、中国はそれに猛反発してEUとの関係をより一層悪くしていくのは必至のことであろう。

これでは中国とEUの間はもはや「投資協定」云々というところではない。政治と経済の両面における双方の対立はますます深まるのであろう。
こうした中で、上述のEU新戦略の概要が明るみになった2日後の9月16日、中国政府が突如にしてTPPの参加申請を発表した。EU・中国投資協定の破綻と中国・EU関係の悪化はその大きな要因の一つであることは明らかであろう。
EUを全面的に取り入れてアメリカと対抗する習政権の「連欧抗米」戦略が完全に崩れたことの結果、窮地に追い込まれた中国はまさに窮余の一策として、TPPへの参加申請を発表したのであろう。
この参加申請は、習近平政権のEUに対する最後の脅しであるとの意味合いがあるのと同時に、TPPに入ろうとするパーフォマンスを演じて見せることは、孤立化が深まった中国にとっての最後の切り札ともなろう。そうすることによって中国は、クワッドと呼ばれる日米豪印4カ国の対中国連合と、最近になって姿を表したAUKUSという名の米英豪対中連携に揺さぶりをかけ、インド太平洋地域における中国包囲網の形成をなんとか阻止しようと考えているのであろう。
つまり中国は、本気になってTPPに加盟しようとはしていないし、そのための努力をするつもりは毛頭ない。例え入ったとしてもTPPの合意やルールを守る意思も全くない。日本を含めた関係国は、中国政府のTPP参加申請を単なる悪い冗談として一蹴すれば良いのであろう。