K-POPのみならず、K-BEAUTYは日本の女性の間で大人気だ。エステから美容外科手術まで韓国の美容レベルは世界トップクラスだし、価格もリーズナブル。飛行機代や宿泊代を入れても日本で施術を受けるのと変わらないほどの価格なので、コロナ前は日本から多くの人々が韓国を訪れていた。

近年、音楽や映画などのコンテンツ輸出に韓国政府は巨大な資本を投資してきたが、美容もその一つだといえる。K-POPや映画産業を育成して韓国スターを化粧品の広告塔にし、韓国美容を輸出すると同時に、エンタメと美容整形ツアーでインバウンド消費も見込める。実にスマートなやり方だ。

「エンタメと美容」の海外輸出とインバウンド。韓国の国策は大成功していると言えるが、反面、セレブカルチャーや美容大国がルッキズムを加速したとも言われている。その結果、「脱コルセット」(コルセットは女性を抑圧する下着だから名付けられた)を掲げる女性運動やYouTuberが国内で台頭した。もちろん、#MeTooの影響もあるだろう。

そんななか、興味深い長編アニメ映画『整形水』が公開された。絵柄は少女漫画のようだが、“整形大国の闇”を韓国映画が得意とするサイコホラーで表現し、韓国のアニメ界では新しいスタイルを開拓している。

 

最後まで着地点の見えないスリリングなストーリーに、主人公の内面を絵柄の変化で表現するなど、アニメならではの仕掛けもふんだんに施されている本作。監督のチョ・ギョンフン氏が、「整形」というテーマに込めた思い、そしていまの日韓のアニメ産業について感じていることを率直に語ってくれた。

『整形水』あらすじ
人気女性タレント・ミリのメイク係として働く主人公のイェジは、外見にコンプレックスを抱いていた。ある日、彼女に外見をあざ笑われ、ますますコンプレックスの塊に。そんなとき、初めて会った新人俳優のジフンに優しくされる。ほのかな恋心を抱くも、彼がミリと一緒に出かけるのを目撃して落ち込むイェジ。ところがある日、顔と体につけるだけで美しく生まれ変われるという「整形水」と出会い、絶世の美女に生まれ変わる。美しくなったイェジはタレントデビューし、ジフンと再会し恋に落ちて幸せの絶頂を味わうが、やがて周囲で不審な出来事が起こっていく……。

「ルッキズムの暴力」と向き合う韓国

『整形水』より

人口あたりの美容整形手術の数が世界一(※1)の韓国では、近年、ルッキズムが社会問題化している。このことが、本作を制作するモチベーションにつながっているのだろうか。

「現在の韓国では“オンラインの暴力”が大きな社会問題になっています。顔も見えない相手の外見に対して不特定多数の人々が罵詈雑言を浴びせる。ルッキズムの矛先は美しい人にも向けられる。こういったルッキズムによる暴力をなくすために政府は努力をしているところだと思います。実際に、雇用に関しては採用応募者の同意がない限り、個人情報を得ることが違法になりました。

それが功を奏して、ルッキズムに関して少しずつ社会の認識は変わってきていますが、大きく改善されるには、まだまだ時間がかかると思います。そういった背景で『美しさとは一体何だろう』という問いかけをしたかったんです」(チョ・ギョンフン監督、以下同)

『整形水』より