目の中に荒れ狂う“砂嵐”が…五輪メダリスト・水谷隼が明かした「目の異変」の正体

本日、自著『打ち返す力』を上梓
現代ビジネス編集部

新しい病気はなぜ生まれる?

そもそも、なぜこうした「新しい病気」が登場してくるのだろうか? 清澤氏が言う。

「先ほどお伝えしたように、患者さんの頭の中だけで起こっている病気に関しては、非常に特定が難しいのです。ビジュアルスノーは、当初、閃輝暗点(せんきあんてん)という症状の一分類なのではないかと考えられていました。

閃輝暗点は、突然、視野の中に光のギザギザ、キラキラの波が見え、それが次第に消えていくと症状が治まったのちに片頭痛に襲われるという病状です。脳の視覚を司る中枢の血管が収縮、その後、拡張する(もとに戻ろうとする)ことによって周囲の神経を圧迫して片頭痛に見舞われるとされており、ストレスなどが関係しているとされています。

しかし、ビジュアルスノーは、そうした一時的な現象ではなく、ずっとちらつきが継続する。閃輝暗点とはメカニズムが違うのではないか、と。水谷さんの視界の中に見えているちらつき症状は、神経眼科的には“視覚陽性現象”といいます。本来存在していないものが見えてしまうことです。この視覚陽性現象が続くのは、高次脳機能に何らかのバグがあるのではないかとも考えられるようになってきています」

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高次脳機能障害は、失語症、記憶障害なども分類されている。

「水谷さんがビジュアルスノーシンドロームであるとすれば、難病といっても間違いではないでしょう。この病はまだあまりにも不明なことが多すぎる。そもそも疾病分類に入っていないことでもそれはわかると思います。日本でもビジュアルスノーについて研究している専門医は数人しかいないのが現状です。神経眼科の臨床医として患者さんを診察する中で、ようやく私自身が最近見つけた共通項は、ビジュアルスノーの患者さんは、おおむねコントラスト感度が弱いということ。

真っ白なペンキ文字を「輝度100」とし、真っ黒の墨を「輝度0」とします。その感度を少しづつ変化させて漆黒を濃い灰色に、真っ白を薄いグレーにしていく。通常の人間ならば30%の濃淡があれば.文字が読める(識別できる)のですが、ビジュアルスノーの人は60~70%の濃淡でないと読めないのです。水谷さんは自著の中で“ボールが消える”と表現していましたが、これは背景にボールが溶け込んでしまった状態を指すのかもしれません。

いずれにせよ、ビジュアルスノーシンドロームは、まだメカニズムもわからなければ、対症療法のめどもない。抗てんかん薬、利尿剤、抗生物質などの投与例が海外で散見されますが、それで症状が消えたというような報告もなされておらず、まだまだ長い時間がかかるでしょう」(清澤氏)

 

よくそんな状態の中で水谷さんは戦ったものだ。それと同時に、自著の記述からは、現役引退を表明した奥底に、この風景は決してわかってもらえない、という切ない思いがあったことがにじみ出ている。

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