責任のおしつけあい
この事件の阿部氏の善管注意義務違反が争われている株主代表訴訟の争点は、阿部氏の過失があるかどうかである。阿部氏ら取引に関与した関係者の陳述書には、互いに責任を押し付け合う同社の体質が色濃く反映されていた。
例えば、本物の地主から送られた内容証明をめぐって、各担当者の職責について認識が大きく食い違っている。

内容証明は、本社法務部に送られ、マンション事業本部の三谷氏にも伝えられた。その内容は三谷氏から阿部氏に伝えられているが、阿部氏はそれが内容証明郵便で送られてきたものだったことは、事件発覚後〈初めて知りました〉(陳述書より・以下、断りのない限り〈 〉は、大阪地裁に提出された陳述書からの引用)と主張している。
三谷氏は、本社法務部が〈阿部氏に当然報告していると思っておりました〉とし、本社法務部長の中田孝治氏は、内容証明の〈存在のみを理由に、当該時点で、東京マンション事業部が進めていた本件取引のプロセスを停止ないし中止させるという判断に至ったとは思えません〉と釈明している。
内容証明をめぐる3者の主張からは、この事件に関与した幹部たちが本物の地主を名乗る人物に対して誰も真贋を確かめようとせず、本物の地主に対してもアプローチすらしようと考えなかったことがうかがえる。
それはなぜなのか。この取引が社長案件として強い推進力のもと進められていたからではないか。