2020年から2021年の「進化」の理由

だが、モチベーションとは裏腹に、昨年末から今年にかけて歩行距離は飛躍的に伸びていった。理由は、主に3つある。

1点目は、大腿部を包み込むソケットと呼ばれる部分を作り替えたこと。地道なトレーニングを積み重ねてきた結果、プロジェクト発足当時と比べると私の肉体は明らかに変化していた。計測してみると、特に右足の大腿部がひと回り太くなっていることがわかった。歩いている途中で義足がずれてきてしまうことが頻繁にあったが、ようやくその原因が解き明かされた。沖野氏の“匠の技”によって製作された新しいソケットは私の逞しくなった右足にぴったりとフィットし、よりバランスの良い歩行が可能となった。

2点目は、膝の部分に搭載されたモーターのパラメータを調整したこと。遠藤氏が開発したモーターには膝の曲げ伸ばしをサポートしてくれる作用があるが、さらに歩く人の特徴に合わせてパラメータを調整することができた。プロジェクト発足当時にひとまず私の歩き方に合わせてパラメータを調整していたが、そこからずいぶんと時間が経っていたため、“現在の歩行”に最も適したパラメータに調整することにしたのだ。その結果、秒速22cmだった歩行が、秒速29cmにまでペースアップした。

ロボット義足は知恵と技術が結集している 撮影/森清
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「終着点」を探していた

3点目は、階段トレーニングを本格的に始めたこと。車椅子から降りて自宅マンションの非常階段をひたすら自分の足で上がっていくというトレーニングはこれまでも取り入れていたが、今年に入ってから60階分を2日に一回というペースで取り組むようにした。すると、みるみる持久力がついていき、これまでより長い距離を歩行していても疲労で体が動かなくなるということが少なくなっていった。

60階分を2日に一回歩くように…

こうした改善点もあり、昨年までは30m程度しか歩けていなかったのが、今年に入ってからは安定して50m以上は歩けるようになっていた。このプロジェクトは以前にクラウドファンディングによって多くの方に支援していただいている。またメディアで取り上げられるたびに、大きな反響をいただいていた。そうしたこともあり、私たちプロジェクトメンバーの胸にはどこかで最新の歩行の様子を公開したいとの思いが去来していた。

デコボコもある普通の道路での歩行練習も…

そして、もうひとつ。私たちは “終着駅”を探していた。「やれるところまでやってみよう」と見切り発車的に始まったこのプロジェクト。「何メートル歩けるようになったら」「何秒以内で歩けるようになったら」などと数値目標を掲げていたわけではない。そのため、どこをゴールに進んでいけばいいのか、チーム全員が惑っていたのだ。私たちはここまでの成果を披露する場としてだけでなく、このプロジェクトの終着駅も同時に探していた。