メディアの前での歩行…「行ける!」

9月28日は、すぐに訪れた。17時に北青山でレギュラー番組の収録を終えた私は、内田氏と合流して科学未来館へと向かった。到着すると、入口でちょうど沖野氏と一緒になった。小学校1年生の長男を連れていた。「妻に預けられなかったもので……すみません」と恐縮していたが、夢中で仮面ライダーについて語ってくれる彼の存在は、私の緊張をずいぶんと和らげてくれた。遠藤氏は早くから会場入りして、設営や配信の準備を進めてくれていた。「お疲れ様です」と言うその表情は、心なしかいつもより緊張しているようにも見えた。

18時、配信開始。遠藤氏がこれまでのプロジェクトの経緯を説明し、それに続いて3年半の歩みをまとめた映像が流される。その間、私は控え室で内田氏による入念なストレッチを受けていた。18時30分、これまで私の奮闘をいちばん近くで支えてくれてきたマネジャーの北村が手慣れた様子で義足を装着する。バッテリーを腰に巻きつけ、立ち上がる。一歩、二歩、その場で歩いてみた。「行ける」——なぜだか、そう確信した。いつも以上の安定感が、たった二歩だけで感じられた。

控室を出て、メイン会場へと向かう。「えっ」。思わず声が出た。数社のテレビクルーをはじめ、多くの報道陣が待ち受けている。こんなにも多いとは想定していなかった。だが、私にはこれまで取材が入っているときほど結果が出るというジンクスがあった。プレッシャーは、きっとプラスに変えられる。そう信じて、私はスタートラインに立った。

いよいよ報道陣の前で地球に向かって歩く 撮影/森清
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ゴールラインを踏み越えて

ゴールラインは50m先。ランニングスタジアムでの練習より、やけに遠く感じられる。「行けるところまで行きましょう」。後方でサポートについてくれている内田氏の声かけで、気負いから解放された。義手をつけた左手を上げ、報道陣に向かって「行きまーす」と声をかける。いつも通り、左足から一歩目を踏み出した。

信じられなかった。ぐんぐん足が出る。よろめくこともない。一気に20m。そして、30m。あれだけ遠くに見えていた「ジオ・コスモス」もずいぶん間近に迫ってきた。一度立ち止まって、息を整える。頭はクリアだったが、会場のどこかにいるはずの母の姿を探すほどの余裕はなかった。

撮影/森清

40mを過ぎ、50mラインが見えてきた。不思議とまだ体力には余裕がある。ふと、マネジャーの北村が忍者のような動きで50mラインのさらに先に身を移していくのが見えた。ゴールラインをさらに超え、柵のところまで歩いていけという合図だろう。「こっちの苦労も知らずに」と苦笑したが、たしかに今日の調子なら行けるような気もしてきた。50mラインを踏み越える。報道陣からどよめきと拍手が起こったが、私は美しい地球に向かってさらに歩き続けた。

撮影/森清
前日の歩行練習。動画で歩行をご覧になりたい方はこちら! 

「やったあ」

義手の先端でガラス製の柵にタッチした私は、後ろに倒れ込むようにして内田氏に寄りかかった。予定を大きく超える66.2m。あらためて大きな拍手に包まれた。すかさず記者の質問が飛ぶ。

——どんなお気持ちですか?

「最高です。自分一人でここまで来られたわけじゃなく、チームみんなで試行錯誤を重ねてきて、それがこの距離に表れたので……本当に胸がいっぱいです」

偽らざる気持ちだった。

66.2ⅿの歩行を終えた直後 撮影/森清