家族を守ることが「使命」だった
カフェのみんなの笑顔は、マテ子の不安を和らげてくれる。自分たちの力で安全な食を提供しているという自信なのか、心からの安心に身を置いていることが伝わる笑顔だった。自分が昔、笑顔がトレードマークと言われていたとき、マテ子は、きっと同じような笑顔をしていたはずだ。
マテ子はそのとき、「信じてみよう」と思った。
科学的な話は難しくてわからないけれど、食べるものなのだから、できる限り自然に近いものがいいのは当然だと思った。家族のためなのだから、「信じること」は「正しいこと」だ。
「私もこのカフェのファームの野菜や食材、試してみますね。夫は働きすぎるから健康も心配だし、長女のことも心配なので」とマテ子が言うと、カフェのみんなは「そうよ。マテ子さんが家族を守らなきゃ」と言ってくれた。
マテ子は自分が夫と長女を守ると思うと、自然と笑顔になれた。牛乳などの乳製品、そして根菜と鶏肉は、カフェで販売しているファームのものしか使わないようにした。塩と米とオリーブオイルも、ファーム経由で、世界から届く信頼できるものだけ購入した。少し割高だったが「正しいこと」だと思った。

それでも全部の危険を取り除くことは難しかったので、平日の昼間にカフェで開催される勉強会で、今の生活から危険を除去する方法を勉強した。知らないことだらけだった。危険は食べ物だけでなく、電気、電磁波、それに水道水にも潜んでいるという。
2人目の子の流産も、恐らくは食と電磁波のせいだと、ファームの先生に言われた。マテ子が何気なく食べていたもの、使っていた家電製品、マテ子も夫もそして長女も「たまたま耐性があった」だけだったのだ。流産してしまった2人目の子は、ちょっと弱かったために化学物質と電磁波の危険に侵されたのだ。
それにもっと早く気づいていれば――。マテ子は亡くなった小さな命にも、夫にも長女にも、申し訳ない気持ちになった。家族の中でのマテ子の役割は笑顔だけではなくなった。家族を危険から守るのが使命となったのだ。