「ドライヤーの電磁波が一番危険なの」
夫が早い時間に帰ってきたある日、マテ子は夫に、「お昼は学校の給食ではなく、私が作る弁当にできないか?」と聞いた。カフェで、学校給食は食品の流通経路が偽装されており、食の危険の温床となっていると教えられていたからだ。
家の食事はずいぶん改善できていたが、小学校教諭をしている夫の昼食は学校給食で、マテ子が手を出そうにも改善できないところだった。夫は「できない」と言うので、マテ子はカフェで教えてもらった給食の危険性を、夫に説明した。
とある小学校では、給食調理室の換気扇だけはいつもピカピカになっているという話。それは給食の食品に含まれる化学物質のせいで、油汚れが換気扇に付着しないほど強力な毒素が給食に含まれている証拠だということ。
別の小学校では、校庭の隅から廃棄された3年前の給食用のハンバーグが、パックのままで掘り出されたという話。それは給食用のハンバーグの肉がそもそも本当の肉ではなく化学的に合成されたタンパク質だから、隠蔽するために廃棄されても腐らなかったということ。

本当のことを言えば、夫にはもう危険きわまりない学校という職場を離れてほしいという思いだった。それまで夫が学校で給食を食べることをずっと我慢していたのだ。これだけ証拠がある話なのだから、夫もわかってくれるはずだ。
ところが夫は、マテ子の話を全く理解してくれない。
「もうそのカフェの話や食の安全の話は聞きたくないよ」
「そろそろ、また保育士の仕事を始めてもいいかもしれない」
「長女を保育所に入れやすいように、思い切って別の市に引っ越ししてもいいから」
というのが夫のマテ子への答えだった。
家の食事は、カフェのファームから購入する鶏肉と、同じファームから購入するオーガニックの野菜が中心だ。夫は今日も「おいしい」と笑顔だった。しかし夫の給料の中からのやりくりではスーパーマーケットの食材に頼らざるを得ないときもある。
完璧に食事を変えられないことに焦りすら感じていた。マテ子は、食事の改善は夫も受け容れてくれていると思っていた。それは夫の「おいしい」という笑顔を信じていたから。