しかし、食事のあとマテ子は、夫のカバンから牛丼チェーン店のレシートを見つけた。
学校給食をやめることを拒否されて、それだけでも落ち着かないのに、マテ子はもう夫のことを信用できないと思った。夫はマテ子の提供する安全な食事を、作り笑顔で「おいしい」と言い、家を出ればチェーン店の牛丼を食べる二面性があるのだ。
今日、夫はたまたま早く帰ることができたからと今、長女と一緒に風呂に入っている。風呂から上がってきたら夫に、牛丼のことを問うしかない。夫が素直に牛丼の危険性を認めてくれたら、マテ子はまだ夫を信じることができる。
「お風呂上がったら、髪の毛、乾かしましょうねー」
脱衣所から夫の声とドライヤーのモーター音がした。もしや……!? マテ子は脱衣所に駆け込んだ。そしてマテ子は脱衣所の光景に血の気が引いた。夫はあろうことかドライヤーの風を直接、長女の髪の毛に吹き付けていたのだ。これは牛丼どころの騒ぎではない。

「ちょっと! 何してるのよ!」
マテ子は取り乱しながら夫からドライヤーを取り上げた。
「ダメなの! ドライヤーの電磁波が一番危険なの。ドライヤーのせいで癌になったり血液が循環しにくくなったりするの」
マテ子は、夫を突き飛ばして、長女を抱きかかえた。長女を守らないといけない。マテ子は慌てて、カフェで購入したオーガニックコットンのタオルを長女の濡れた髪の毛にかぶせて、タオル越しに斜めからドライヤーの冷風をそっと吹きかけた。
「このコットンは電磁波を弱める織り方になっていて、オーガニックタマネギの染料を使っているから、ドライヤーを使うときはこうしなきゃいけないの!」
「髪の毛に付着した化学物質が、電磁波の振動で、子供の柔らかい頭皮から脳を汚染するのよ!」