2021.10.22
# 学校・教育

山中伸弥「自分の意志で動ける人間に育てるには、ごく普通の暮らしをすること」

山中教授、同級生の小児脳科学者と子育てを語る(4)
これまでいくつかの書籍を刊行してきたノーベル賞科学者・山中伸弥教授だが、「子育て」について書いた​本はまだ一冊もない。どうすればわが子が山中教授のように育つのか?を知りたい全国の親御さんに届ける子育て本『山中教授、同級生の小児脳科学者と子育てを語る』が本日発売。
神戸大学医学部時代の同級生で、山中教授の「勉学の恩人」でもあった小児脳科学者・成田奈緒子医師が、山中教授がこれまで語ったことのない本音を引き出します。

一貫性なんてなくていい

山中 在学中は仲間に恵まれたなあ。
成田 でも、卒業後は偉大な方々との出会いがあったのでは?
山中 はい。なかでも、日本人初のノーベル生理学・医学賞を受賞した利根川進教授の言葉には救われました。「常識にとらわれるな」と僕に教えてくれた恩人ですね。
成田 利根川さん。報道でしか存じ上げないけれど、さまざま読むと人間的にも立派な方だなという印象を持ってました。お会いしたの?

利根川進氏 Photo by GettyImages

山中 ちょうど30代の半ばころに、利根川先生の講演会をお聴きする機会があって。当時は自分のポストもまだない段階で、これから教授職とかにトライしていかねばと考えていた時期でした。その一方で、当時の僕は研究テーマがコロコロ変わってて、なかなか定まらなかった。
成田 わかる。私も臨床やって、遺伝子研究やって。特別支援教育に落ち着くまでは、本当に「広く・浅く」の道のりでしたよ。
山中 僕と同じような感じでしたか。当時は、周りの先生がたは「日本では研究の継続性が評価されるから、同じテーマを続けるのが大事だよ」と異口同音におっしゃっていた。
成田 私もそれ、よく言われました。同じだよ。
山中 何かのインタビューでも話したんだけど、僕は整形外科医に始まって、たった数年で2回も3回も研究テーマを変えています。薬理学の研究をして、30歳でアメリカに留学して動脈硬化を調べていた。けれども、そこからがんの研究に変わった。それをやっているうちにES細胞に行き着いて。果たしてこれでいいのかと、少々不安になってた時期やった。
成田 そんなときにねえ。利根川先生、ノーベル賞を受賞されたばかりのころかな。あの方、もともと免疫のほう(研究)をやられていて、脳科学の研究に移られてますね。
山中 そうそう。それで質問タイムに勇気を振り絞って手を挙げて。「日本では研究の継続性が大切だと言われますが、先生はどうお考えですか?」って聞いてみたの。
成田 へえー。利根川先生はなんて?
山中 先生はまず「一体誰がそんなことを言ったんだ」って笑いながらおっしゃって。会場もすこし和やかな空気になって。そうしたら、利根川先生は「一貫性なんてなくていい。君自身が重要で面白いと思ったことをやればいいじゃないか」と言ってくださった

 

成田 それは、勇気づけられたねえ。良かったねえ。
山中 いやもう、あそこで腹がくくれたというか、自分がやりたいことをやろう、決めた道を行こうと思えたのかな。常識を疑うというか、自分の常識は自分で決めるというか……。もちろん、結果論なのかもしれないけど。

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