10~20代とダイエットに憑りつかれ、摂食障害に苦しんだ経験がある吉野なおさん。現在はプラスサイズモデルとして活動しながら、行き過ぎたダイエットへの警告や自分自身の身体を肯定していこうというボディポジティブなメッセージを積極的に伝え続けている。「多くの人に摂食障害のきちんとした情報を知ってほしい」と摂食障害の専門家に取材。兵庫医科大学病院の精神科医・山田恒医師にインタビューを行った。

オンライン取材中の吉野なおさん

前編では、摂食障害の発症原因とコロナ禍に増加している理由を中心に話を伺った。後編では、具体的にどんな治療を行うのかなど、摂食障害と診断された後のことを伺っていく。

 

治療の必要性を時間をかけて理解してもらう

摂食障害に悩む人が特に知りたいことは、「どうすれば治るのか」、ということだろう。摂食障害に対する精神療法はあるのだろうか?

「摂食障害に有効なエビデンスのある精神療法はいくつかあります。『認知行動療法』や、18歳未満だと『ファミリーベースドセラピー』というものなどです。ただ、今の日本の保険診療で、それらをやることはなかなか難しい。なぜかというととても時間がかかる治療だからです。丁寧に時間をかけてお話を伺っていくとなると一人にかかる診療時間が長くなり、私が患者さんを診れるのは1日に数名となってしまう。そうなると保険診療ではなかなかカバーできないという現実があります。患者さんにとっても、時間もお金もかかります。

私の診療で心掛けていることのひとつは、動機づけです。摂食障害に価値を見出してしまい、病気なのに何も問題がないと話す方もいます。これだと治す気にはならないですよね。でも、本当は体も心も悲鳴を上げていて、辛くてしんどいはずなんです。だから、なぜ病気を治さなければいけないのか、病気を治してどんな自分になりたいのかを話し合います。そして具体的な目標を立てて、ご自身の生活の中で取り組んでもらい、経過を見ていきます。でも、“頑張れなくても責めない”ということがもっとも重要です。

治療についてよく言われることは、摂食障害は医療者が治すものではなく、本人がよくなるのを周りがサポートするということです。主役は自分なんだ、ということを感じてもらうことが大切です。もちろん、低体重で命の危険がある場合は、医師としてその部分を優先して助けることが原則です」(山田医師)

オンライン取材に回答くださった、兵庫医科大学病院の精神科医・山田恒医師