大人も子どもも必須な「体に対するリテラシー」

今年の7月、アメリカではピンタレストが減量に関する広告を排除したニュースもあった。日本におけるSNSやマスメディアの在り方、社会にいる大人たちが意識するべきことはあるのだろうか?

「日本でも広告規制をした方がいいという気持ちもあるけれど、個人的には原理主義者的に何でも排除してしまうのは、それはそれで問題だと感じることもあります。ただ、子供たちがよく使うTikTokやInstagramなどのSNSに関しては、ペアレントロックのようなもので年齢によって広告の種類をある程度制限してもいいと思います。

マスメディアに関しては、商業主義であることを隠さずダイエットの宣伝をしてほしいですね。利益相反があるということを隠して、誰にでも『健康のために痩せた方がいい』と訴えかけるのはやめてほしいですね。

医学的にみると、実はやせているよりもBMI27ぐらいでちょっとぽっちゃりしている人のほうが長生き出来たり、ヨーヨーダイエットと言ってダイエットするほど太りやすくなるといった現象もあるんです。子どもたちの摂食障害を防ぐには、大人たちが情報リテラシーをもっと持ってもらいたい

ダイエットを含め、健康情報にはPR目的の情報も多くフェイクニュースや過剰表現が非常に多い。photo/iStock

でも、それは教育の問題だと思うので、そういう知識を持てる機会を増やす仕組みづくりが大事だと思います。例えば、保健体育の授業など、学校教育の中で体重やダイエットの誤解点、摂食障害や精神障害に関するものを取り扱っていくのもいいと思います。すでに地域によっては学校が医師会や心療内科と連携していて、健康診断で低体重の子がいたら連絡が入るという体制のところもあります。本来はどの学校でも、正しい知識の教育とチェック体制が出来たらいいと考えています」(山田医師)

 

摂食障害は『人生の苦しみを現す病』

以前、中学生向けに身体的コンプレックスとの付き合い方についてオンライン授業をしたときに、SNSに影響を受けて焦燥感からダイエットを始めたり、YouTube広告で見たダイエットサプリを買ったと答えた生徒がいた。もし私が今の時代の中高生だったら、同じことをしていたかもしれない。広告やコンテンツを作る大人たちが意識することはもちろんだが、体の仕組みやダイエットに関する正しい情報、SNSとの付き合い方を子供たちに教える必要性を感じる。安易に始めたダイエットが摂食障害に繋がり、人生を左右し、命に関わることもあるのだから……。

山田医師が「本人が治療に自覚的になることが大切」と話していたことは、決して「自己責任でどうにかしよう」という意味ではない。社会の中にある『こうあるべき』という幻の理想に囚われていることに自分で気づき、違和感を持つことだと思うのだ。SNSをやめたり、やせることに対して焦燥感を抱くようなアカウントのフォローを外し、情報を整理していくことで摂食障害から距離が置けるようになった話も聞く

私が摂食障害で悩んでいた頃は、「食べる量をうまくコントロール出来ない自分が悪い」「誰にも理解されないだろう」と自分を責め、孤独だった。でも、山田医師の話を伺ううちに、単なる食行動異常としてではなく、患者の人生に耳を傾け、熱心に摂食障害の治療にあたっている医療者がいることを知って、驚きとともに嬉しくなった。その時は知らなかっただけで、理解してくれる人たちが本当はいたのだ。

回復した今、私は些細なことで幸せを感じられるようになった。当たり前のことかもしれないが『人と一緒に普通に食事が出来る』ということも、私にはとても幸せなことなのだ。

とはいえ、生きていれば辛いことや大変なこともある。でも、もう昔のように無理にやせようとしたり過食症に陥ったりはしない。その代わりに、辛さや怒りを言葉にあらわし、誰かや何かに助けを求めるようにしている

人が「痩せなきゃいけない」と思うとき、本当はそこにどんな思いが、どんな人生が隠されているのだろう。摂食障害は、単なる『食欲の問題』ではない。インタビューを通して、摂食障害は『人生の苦しみを現す病』なのだということを改めて感じた。

辛いときは助けを求めていい。photo/iStock

今回お話を伺った山田恒医師と、吉野なおさんが登壇する市民講座が開催される。オンラインで全国どこからでも視聴可能。ぜひ、ご参加を!

第24回 日本摂食障害学会学術集会 市民公開講座
『痩せているって、本当に良いこと?〜ダイエットの不都合な真実とメディアとの関係について、専門家と経験者が話し合います〜』

10月31日(日)14:30〜16:00(Zoomウェビナー開催)参加費無料・事前申込不要。どなたでも視聴いただけます。詳細はホームページをご覧ください。
https://med-gakkai.jp/jsed2020/
兵庫医科大学精神科神経科学講座では、痩せすぎモデル問題と摂食障害に関するwebアンケート調査実施中
アンケートにご協力をお願いいたします。(無記名・所要約5分)
https://forms.gle/2L52aviUWadJqBnw8