倉本聰が書き上げていた幻の新作『北の国から2021ひとり』、その衝撃の内容

碓井 広義 プロフィール

黒板五郎の「最期」

そんなとき、純は札幌でかつて恋人だったシュウと再会する。シュウは純の代わりに五郎の様子を見に行く。

石の家に着くと、中から五郎の話し声が聞こえる。誰か来ているのかと思って入ると、五郎がひとりで令子の写真と会話しているのだった。札幌に帰ってきたシュウは、そのとき五郎が言ったことを純に話す。

「最近、夢を見た。山で、ものすごく大きな角を持った真っ白なシカに会った。そのシカが夢の中でおいらに言った。みんなひとりじゃないって。あれはカムイの使いだ」

純も螢も忙しくて五郎とまともに連絡を取らないまま時が過ぎ、不安になった純はシュウとふたりで石の家に行く。そして書置きがあるのを見つける。

「純様、螢様、おいらの人生もう終わる。探しても無理。探索無用。おいらのことならほっといて」

 

気がつくと令子の写真だけが見当たらない。大騒ぎとなり、純がいろいろなところを探すうちに、山おじに行き当たる。しかし、山おじは「五郎は山に入った。お前らに行くのは無理だ」と言って場所を教えない。

純は、自分たちが父親を放置したために死なせたという思いにかられて、螢に電話するが、涙で声が出ない。

結局、五郎は一人で山に入って亡くなり、遺体を動物に、骨を微生物に食わせて、「自然に還ったのだ」と察するしかなかった。

その晩、純とシュウは石の家に泊まる。夜中にシュウに起こされ、そっと窓の外を見る純。そこには、大きな真っ白い雄鹿が一頭、石の家をじっと見ながら立っていた。

やがて雄鹿は、ゆっくりと向きを変え、森の奥へと消えていく。その姿を目で追う純。このとき、シュウが聞いたという五郎の言葉が甦ってきた。「みんなひとりじゃない」と。

この五郎の終焉は2021年3月24日、つまり田中邦衛さんが亡くなった日であろうと思われる――。

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