漫画家で小説家の折原みとさんはドラマをこよなく愛し、雑誌のドラマ企画座談会にも呼ばれている。
そんな折原さんが2019年ドラマのベスト3のひとつに挙げているのが、テレビ東京の深夜枠に放送された『きのう何食べた?』だった。
よしながふみさんの「美味しそうで繊細でほっこりしてドキドキしてあるある満載」の原作の良さを見事に実写化し、さらにドラマならではの面白さを実現させた本作は、西島秀俊さんが演じる料理上手な弁護士の筧史朗(シロさん)、内野聖陽さんが演じる美容師の矢吹賢二(ケンジ)の男性カップルの「食」を中心とした恋愛ドラマでもある。
毎週金曜日24時12分~24時52分という深夜ドラマとしては、記録的な視聴率を誇り、深夜枠ドラマからお正月スペシャルドラマが作られた本作が、いよいよ劇場版としてスクリーンに登場する。「何食べ」を愛するひとりとして一足先に劇場版 を観た折原みとさんが、伝える作品の魅力とは。
幸せすぎて舞い上がるケンジにニヤニヤ
2019年に放送された傑作ドラマ、『きのう何食べた?』。
男性カップル、シロさんとケンジの、心あたたまるラブストーリーにハマっていたあの頃から、2年あまり。
なんと、『何食べ』が劇場版になって帰ってきた!
この2年の間に、現実の世界はコロナでずいぶん変わってしまったが、シロさんとケンジの日常は、あいかわらず平和だ。
劇場版の冒頭は、シロさんがケンジを京都旅行に誘うところから始まる。ケンジへのバースデープレゼントだ。
ふたりきりで旅行? しかも、しまり屋のシロさんが京都……!?
幸せすぎて舞い上がるケンジのかわいさに、しょっぱなからニヤニヤが止まらない!!
『おかえりモネ』の憎い演出
「おかえりシロさん!」「おかえりケンジ!」
劇場のスクリーンに映し出される懐かしいツーショットに、思わず、心の中で叫んでしまった。
ドラマ版の『2020年新春スペシャル』以来の再共演だが、まったくブランクを感じさせないおふたり。
西島秀俊さんと内野聖陽さんは、役を演じているというよりも、「シロさんとケンジ」そのものだ。
NHKの朝ドラ、『おかえりモネ』では、主人公の「上司」と「父親」という、それぞれまったく違う人物を演じていたというのに!
ちなみに、『おかえりモネ』の脚本は、「何食べ」と同じ安達奈緒子さん。
一度だけ、『モネ』で西島さんと内野さんが顔を合わせるシーンがあったが、「初めて会った気がしない」なんて意味深なセリフに、『何食べ』ファンはドキドキしたのではないだろうか。
初対面のはずなのに、ヤケに親密に心を打ち明け合っていたふたりが、その回だけ、パラレルワールドの「シロさんとケンジ」に見えた……というのは余談だが。
ともかく、このおふたりがそろった時に醸し出す幸せな空気感は、劇場版になっても変わらない。