2021.11.05
# 格差・貧困

増加する「地元志向の若者」は本当に食っていけるのか?

高卒で地元就職のリアルと地域間格差
飯田 一史 プロフィール

――大分県の商業高校や工業高校の生徒に対して先生が実施した調査では、自宅周辺での就職を考えた人たちの約2割がその理由として、「知らない土地で生活するのは不安だから」を挙げていることに驚きました。この情報化社会において、外国ならまだしも同じ日本国内の政令都市や東京に対して「こわい」というのが感覚的によくわからないのですが……。

阿部 若者でなくても知らない土地で暮らす不安は多かれ少なかれあると思います。高校生でなくとも、たとえば私が日頃接している大分大学の大学生に聞いても「東京のラッシュはイヤだ」「渋谷はこわそう」というイメージを持つ人もいます。遊びに行くのはいいけれども暮らすのはどうかな、と。まして高校生は行動範囲が狭いですから、未知の世界に飛び込む不安は大きいのでは。

かつても都会へ出ることに不安はあったと思いますが、昔のような都市への憧れがなくなり、期待が小さくなったがために不安がより強く出ているということではないかと思います。

――なるほど、都市に感じる魅力が減退して不安だけが残った、と。客観的に見ると、高卒で地元就職をしても基本的には低収入な仕事が多く、厳しい雇用環境に置かれますが、それでも調査上は当事者の満足度、幸福感は低くないそうですね。これはなぜでしょうか。

阿部 先ほど言った雇用環境の改善や、日々の生活で相対的に困らなくなったことが背景でしょう。私は満足度や幸福度を自分の研究では取り扱っていませんが、轡田竜蔵さんの『地方暮らしの幸福と若者』(勁草書房、2017年)はそれを論じています。

満足度については、仮に「全体としては満足」であったとしても、「これについては満足/不満」と個別の要素を細かく見ていく必要があります。雇用に関して言えば、私が聞き取り調査をしている若者たちの満足度は高くありません。仕事や職場に関して、あるいは仕事がないことや労働条件に対する不満は持っています。「総体的には満足しているのだから何も手を打たなくていい」とは言えません。

[PHOTO]iStock
 

「地方から出たくても経済的な理由で出られない」若者もいる

――先生がされた大分県の商業高校の2年生に対する調査では、大学などへの進学希望について「考えたことはあるが、家庭の事情で断念した」が18.7%、工業高校でも12.6%がそう答えていました。消極的な理由で地元に留まる層も1~2割いるわけですよね。

阿部 進学に限らず、先行研究では地方出身者の中でも経済的に恵まれている人ほど都会に出る可能性が大きいことが示されています。とりわけ東京の私立大学は学費が高いですから、行けるかどうかには階層が大きく関係します。奨学金を限度めいっぱいまで借りて東京に出る人もいるようですが、卒業後の返済が大きな負担になっています。

経済的な格差が都市部に出る/出ないを分けるのは望ましくありません。政策としては都会に出たい人には出られるように、地元に残る人には残れるように支援するのが重要です。

――高卒で地元の中小企業に就職すると正社員でも非正規でも月収10~15万です。それでは別の地域で暮らすための引っ越し資金の用意も困難です。すでに階層がかなり固定化されていて「出たくても外に出られない」面もある?

阿部 そう思います。地方では多くの場合、高卒者の賃金は最低賃金のレベルで、そこから脱することが難しい。もちろん、地方と言っても自動車メーカーの工場があるような地域ではそこに勤めると高い賃金がもらえることもありますが。賃金が低いと実家を出て自立することも結婚も難しくなります。

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