――もうひとつ地方で雇用・収入源になるのは観光ですよね。しかし観光依存の脆弱性もコロナ禍で明らかになってしまいました。著書では「地域の暮らしを基本に据えた観光」であれば地域経済を支えられる、という指摘がありました。具体的にはどういうものでしょうか。
阿部 たとえば農村でのグリーンツーリズムや農泊(農山漁村地域に宿泊し、滞在中に豊かな地域資源を活用した食事や体験等を楽しむ「農山漁村滞在型旅行」)です。大分県の安心院(あじむ)は山の中で観光資源らしいものはないところですけれども、ぶどう栽培をしており、酒造メーカーに委託してワインを作っています。この地域のリーダーが農泊を始め、中学生や家族の農業体験を受け入れていることが、よく取り上げられる事例になっています。
また、大分では湯布院が人気の温泉地になっていますが、ここももとから農村地帯です。今80代の先駆者たちが地元を活性化させるために考えたのが「ひなびた農村の風景を楽しめるような静かな温泉」だった。それが時代にマッチして成果をあげていきました。ただ、観光客が増えると他の地域にもあるような土産物店が並ぶようになってしまいましたが、それでも田園風景を柱にしている以上、地場の農業がなくなければ魅力がなくなってしまう。
このように農業がベースにあり、それにプラス――どれだけの収入になるかは別にして――観光が成り立つ余地は、全国各地でそれなりに広くあると思います。
地方から積極的に発信しなければ状況を変えられない
――阿部先生が指摘されている、地域の雇用をめぐる構造がこのあとも大きくは変化しなかった場合、どんなことが起こりうると思いますか。
阿部 格差が広がり、階層がますます固定化され、次世代に再生産されていきます。メディアでは正規と非正規のあいだの所得格差や社会階層の固定化が注目されますが、加えて都市部と地方とのあいだの地域間格差も問題で、放っておくと後者がさらに深刻化します。
一般的には、貧富の差が大きく開くと暴動にもつながると言われますが、日本ではそれは起こりにくい。しかし、地方は、ますます活力を失い、不満も溜まってゆくのではないでしょうか。
――潜在的にはそういう分断と不満のリスクが高まっていくと。
阿部 しかし都市部の人たちは一般的に地方のことにあまり関心がなく、都市から何かを変えていく動きは作りづらい。地方の側から分散型の国土政策のメリット、人口集中型のデメリットを説明し、「地域で暮らしている、暮らしたい」人がいることとその背景を伝えていく必要があるのだろうと思います。