野菜、ハーブ、魚、肉、卵……、「おいしい」をかたちにするのは、使い手の腕前と素材の力があってこそ。持続可能な方法で育てられ、大切に扱われている素材に未来を見出し料理で表現する、そんな食のプロたちを追いました。
「旅する料理人」こと三上奈緒さんは、お金を出せばなんでも買える時代だからこそ今、自然の食卓を表現しようとしています。
三上奈緒(みかみ・なお)
栄養士として小学校に勤務後、渡仏、渡米。国内外のレストランで研修する。現在は「旅する料理人」として各地の自然に寄り添う生産者を訪ね、料理を通して生産者と食べる人を繋ぐ活動を続けている。https://www.naomikami.com/
「旅する料理人」が出合った
日本で一番おいしい卵

“Farm to Table”という言葉が使われるようになって久しい。レストランで使われることが多いけれど、この“Farm to Table”を、自分の体を使って表現しようとする人がいる。
「旅する料理人」こと三上奈緒さんは日本各地を旅しながら、その先で出合った農家や漁師、猟師らと交流し、その土地の食材を使って料理を作る活動を続けている。中でも最近力を入れているのが、その活動で得た感動や気づきを多くの人とシェアするイベント。この夏は石川県加賀市の黒崎海水浴場で参加者と一緒に食材を調達し、海岸で焚き火を使って調理し食べるというワークショップ“Around the fire”を行うというので、参加させてもらうことにした。

一緒にワークショップを行うのは、黒崎海水浴場で海の家「入のや」を営む堂下慎一郎さん、亜也さん夫妻。慎一郎さんは地元出身。幼い頃から海に親しみ、素潜りで牡蠣やサザエをとり、魚を突く。調理師免許をもつ亜也さんがそれらを料理している。2015年からは本格的に平飼い養鶏を始め、「山ん中たまご園」として卵の生産も行っている。
三上さんと堂下さん夫妻の出会いは2年ほど前。石川県の小松市に暮らす友人から「すごくおいしい卵を作る人がいる」と聞き、堂下さん夫妻を訪ねた。

「そのときご馳走になった卵焼きが、出汁を使わず、水と塩だけで作ったものだったんですが、人生のベスト・オブ・卵焼きというほどおいしかった。どうしたらこんな卵が作れるのかと養鶏の様子を見せてもらったら、さらに驚きで!」
件の“水巻き卵焼き”を食べてみたら、三上さんの感動がよくわかった。ほんのりと感じる卵の甘さ。メレンゲのように淡くて、口の中でふわぁと溶けていくような心地いい食感。こんな優しい卵焼き、たしかに食べたことがない。