世界ランキング1位を未だに独走する『イカゲーム』。しかし、8月末に配信開始された当時『イカゲーム』以上に韓国社会をざわつかせた作品がある。それが、Netflixで配信中のドラマ『D.P. -脱走兵追跡官-』だ。
韓国を語る上で欠かすことができない兵役の内情とそこに生まれる不条理ないじめについて、痛いほどリアルに描いている。しかも、軍隊でのいじめ問題による事件は実際にもあり、韓国社会では今まで封印されていた軍隊の恥部をよくぞここまで描いてくれた、という声も数多く上がったという作品だ。

また、BTSをはじめ、他にも人気グループや俳優でも気になる兵役問題。ファンたちの間でも、兵役のしくみや内情は気になるところでもある。そんな知っているようで知らない「韓国の兵役」の内情を独自の視点で韓国の現状を語る『韓国人YouTuber JIN(仁)』さんが、前編・後編で詳しく解説!
前編では、人気絶頂期に兵役に行ったヒョンビン(2011年3月入隊、2012年12月除隊)や、行くの?行かないの?の結論が未だに出ないBTSの話を中心に、リアルな韓国の兵役事情をお伝えする。
ドラマ『D.P. -脱走兵追跡官-』の韓国での評価
ドラマ『D.P. -脱走兵追跡官-』のD.P.とは「Deserter Pursuit(軍隊離脱者追跡)」の略。主人公のアン・ジュノは大韓民国陸軍第103歩兵師団 憲兵隊捜査課に所属する二等兵です。この「憲兵隊」とは軍警察のことで、ジュノは軍から脱走した隊員を逮捕し、連れ戻すという職務を担っています。ドラマは2014年の陸軍が舞台なので、今とは少し状況が変わっている部分もありますが、「軍隊の危ない部分をよくぞここまで描いてくれた!」と韓国国内でもとても高く評価されています。
『D.P. -脱走兵追跡官-』には、陰湿な体罰といじめが原因で脱走し、あげく自殺をする兵士が登場します。もちろんドラマなので誇張されている部分はありますが、ああいった先輩からの理不尽な体罰は、兵役中私も経験がありますし、うんざりするくらい嫌な目にもあっています。今でもその人の顔と名前を思い出せるくらいです。
とはいえ、軍隊時代のことが今もトラウマになっているかと言われたらそんなことはないです。名前を思い出せると言いましたが、基本的には嫌な思い出は除隊したときに忘れました。ドラマのように、自分をいびった先輩の除隊日に、恨みつらみを言う人に出会ったこともありません。どんなに嫌な先輩でも、除隊の時は快く祝って送り出すのが大韓民国の男、という感じです。
ましてや訓練中に銃を持ったまま逃げるとか、銃で撃たれるとか、そういったことは数年に1度起こるかどうかの特殊な事例です。実際にあった事件をモデルにしたドラマですが、制作者は、しつこく体罰やいじめを描くことで「こんなことは絶対にあってはならない」ということを言いたかったと考察しています。これから入隊する人も、ドラマを観てあらためて軍隊について考え、気を引き締めるいい機会になったのではないでしょうか。