ジェンダー、移民をめぐる格差問題
――今回の本を作るにあたって多数の教員の方々と「公開編集会議」というかたちで何度も対話されたそうですが、本では教育と社会との関わり、学校間格差、非行、進路、性別、移民、特別活動や部活動、不登校・いじめ、社会調査等々多岐にわたる内容が扱われています。どの部分が、あまり現場で共有されていないと感じましたか。
中村 ジェンダーの話と移民の話です。ジェンダーについては、例えば現場の先生から「身体的な男女差があることをどう考えたらいいのか?」といった声も挙がりました。体育をやるときにいっしょに着替えるわけにいかない……といったことに象徴されるように、ジェンダー平等に関しては画一的な対応では済まない部分もあります。ジェンダー平等の重要さはわかるが、現場でどう実践していけばいいのか、という引っかかりを覚える方が幾人もいらっしゃいました。

移民に関しては、日本人の子どもの場合、小・中学校は義務教育ですが、移民の子どもは義務ではなく「入ってもいい」という位置づけです。言葉の問題などでさらにサポートする必要まであるとなると、日々忙しいなかでどうしたらいいのか、外国人の子供だけを特別扱いできないという声があがりました。
このふたつに関してはまだまだ現場でロジックや対応のしかたが十分に確立、蓄積されていないのかなと。いずれも放置すると格差に直結する問題です。だからこそ、実践していくためにも実態と考える枠組みを知る必要があります。
ジェンダーと移民に加えていえば、児童の社会福祉に関する支援の専門職であるスクールソーシャルワーカーも、藤本啓寛さんのコラムを公開編集会議で議論した際に、そもそもその存在自体をよく知らないという参加者もいました。
しかしたとえば今回の本に伊藤秀樹さんが「不登校・いじめは「心の問題」なのか」という章を執筆されていますが、不登校問題は心理学系の課題として取り上げられやすい一方で、実は母子家庭であるとか、家族に借金があって子どもにも影響があるといった社会経済的な問題から不登校になるケースもあります。そういった場合、先生がひとりで抱え込むだけで解決できる問題とは限りませんから、福祉関係の機関やスクールソーシャルワーカーと連携するのが選択肢になってきます。存在を知っているだけで「相談してみよう」と選択肢に入ってきますから、こうした知識も重要です。