2021.11.17
# ロシア

「若者のプーチン離れ」のなかで、ロシアは「チェチェン」とどう向き合うか?

ポスト・プーチンのロシアを読む
真野 森作 プロフィール

チェチェンの首都中心部には「グロズヌイ・シティー」という名の摩天楼群がそびえる。2011年に完成した最高40階建ての高層ビル7棟だ。さらに102階建ての超高層ビルを建設する計画まで存在する。しかし、それを支える経済は連邦からの補助金頼みというのが実態だ。チェチェンでかつて盛んだった石油関連産業は紛争をへて衰退した。毎年の共和国予算の8割が連邦からの補助金で、公共部門が支える経済となっている。

一方、強権支配の手足となっているのが「カディロフツィ」と呼ばれるラムザン・カディロフ首長の親衛隊だ。チェチェン人のみで構成された数万人規模の武装組織である。問答無用の暴力をふるうことで恐れられている。例えば、2017年には性的少数者(LGBTQ)と疑われた人たち100人超を一斉拘束し、拷問にかけたと報じられている。また、対テロ作戦では、死亡したテロ容疑者の家族や親族の家を焼いて地域から追放するといった具合だ。

チェチェン報道に力を入れてきたロシアの独立系新聞「ノーヴァヤ・ガゼータ」紙のドミトリー・ムラトフ編集長が今年のノーベル平和賞受賞者に選ばれたのは、偶然ではない。欧米においてチェチェンやロシアの人権状況が強く懸念されているからだ。性的少数者の迫害に関しては、米英合作でドキュメンタリー映画「チェチェンへようこそ――ゲイの粛清」が昨年製作され、日本でも来年2月に全国上映される。

2017年にチェチェンで起きたLGBTの権利擁護を求めるデモ〔PHOTO〕Gettyimages
 

このカディロフツィはチェチェン内部にとどまらずモスクワにも進出し、暗殺などの裏仕事に手を染めているとみられる。2015年2月に反プーチン派の大物政治家だったボリス・ネムツォフ元第一副首相がモスクワ中心部で暗殺された際には、ロシア当局が逮捕した容疑者はチェチェン人グループで、カディロフツィの幹部が含まれていた。

事件では首謀者が誰か納得のいく結論が示されないまま幕引きされたが、チェチェン上層部が関与した疑いは濃厚だ。ノーヴァヤ紙でチェチェン報道を担ったアンナ・ポリトコフスカヤ記者も2006年、モスクワの自宅アパートでチェチェン人に銃殺された。こちらも黒幕は明らかになっていない。

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