ポスト・プーチン時代の「火薬庫」
ここまで説明してきたように、チェチェン共和国はロシアの中で本土とは異なる独自路線をひた走り、軍事力も強化している。その一方で、プーチン大統領とカディロフ首長の強い結びつきを中心に、チェチェンではロシアの愛国主義も強調される。ロシア中央に対する「遠心力」と「求心力」とが同時に働いているような状況だ。
連邦からの巨額の補助金が無くなればチェチェン経済が立ちゆかなくなることはすでに述べたとおりである。微妙なバランスによって安定が保たれているため、一番肝心なプーチン・カディロフ両氏の盟友関係が崩れたときにどうなるかが問題だ。
大統領職について「仕事というより運命」と発言するなどプーチン氏に私利私欲を越えた強い使命感があることは間違いないだろう。1952年生まれの同氏は現在69歳である。昨年、ロシアでは紆余曲折を経て憲法が改正され、大統領の多選禁止条項をプーチン氏に限って甘くすることが決まった。これによって次回2024年大統領選へのプーチン氏の出馬が可能になった。
当の本人は改憲を巡る下院での演説で「国家がこのような激動期にあるとき、安定がより重要だ。私たちはソ連崩壊後の全てを克服したとは言えない」と強調し、自身の続投の可能性を示唆した。20年にわたってロシアの大国化に努めてきたはずの国家指導者が、現状を「激動期だ」と主張するのは驚きである。自らの政権による長年の取り組みが十分な成果を上げていないと告白したに等しいからだ。