神戸大学医学部時代の同級生で、山中教授の「勉学の恩人」でもあった小児脳科学者・成田奈緒子医師が、山中教授がこれまで語ったことのない本音を引き出します。
多くの日本人がわが子にレールを敷いてきた
成田 高度成長期からずっと、多くの日本人がわが子に「こうなってほしい」というレールを敷いてきたと私は考えてます。そのレールから外れてしまうと心配で仕方がないから世話を焼く。平成、令和とさまざまなものが変化したのに、子育てだけが、昭和の時代から地続きなのかもしれません。
山中 そうなっちゃいますね。
成田 ところが、心配された子どもは「一番そばにいて自分をわかってくれているずの親から、こんなに心配されている自分はダメな人間だ」って思っちゃう。心配されるってことは、信用されていないってことだから、子どもの自己肯定感はどんどん下がる。そう考えると、自分で選んだことを失敗しては立ち上がって続けて、自信をつけるほうが重要。「ほったらかし」は子育てに必要なんです。
「ほったらかし」が創造性を育む
山中 なるほどなあ。そうなると、干渉されてきた人が今親になっている確率は高いってことだね。
成田 そう。だから今、良い意味での「ほったらかし」をされてない若い子が多いと思います。
山中 僕は成田さんと違って、小さい子どもさんとか中高生とかと接する機会があまりないのですが、大学院生であったり、研究者のたまごである20代から30代前半くらいの若者が研究所にいっぱいいてて。彼らにどんなふうに教育をしていったらいいのか。というか、接し方かなあ。僕だけじゃなく他の教授もみんな結構悩んでいます。

成田 そうでしょうね。
山中 僕もそうだったけど、結構他の教授たちも、ほとんどみんなほったらかされてたんですよ。学部生のときは違うと思うけど、研究者になろうと思って大学院に入った後は手取り足取りとかそういう教育は一切なかった。「自分で何をやりたいかを考えろ」から始まって、次は「自分で見て(やり方を)盗め」などと言われてきました。論文を読み込んで、学んで、見て、盗め。そんな環境で、自ら創意工夫をして、みんな何とかここまで来た。そういう感じなんです。
成田 うんうん。私も研究者だった時代はそうかな。というか、何か教えてほしいとか思ったこともないというか……。
山中 僕も振り返ると、そんなに手取り足取り教わった記憶がありません。ある意味、自分のやりたいように、させてもらってました。そう考えると、先ほどの「自分で選んだことを、失敗しては立ち上がって続けて、自信をつけるほうが重要」というのがよくわかります。できるだけ口を出さないというか、自分で考えてやるのが一番いいというふうに思って当然というか。
成田 なりますね。