ひょっとしたら、本当に…?
プロフィール欄のコスメ会社のホームページもしっかり作り込んであるので、コロっと行きそうになったが、暗号資産の話をサブリミナル的に盛り込んでくるところがいかにも怪しい。さて、この陳という男はどのようにして私の心にアクセスしてくるのだろうか。一つ、騙されるふりをしてお手並み拝見することにした。
陳の手口は、舌を巻くほど精密なものだった。
まず感心したのが、SNS投稿の内容とメッセージの内容がきちんと連動しているということ。秋分の日には、北京へ帰省し家族とお祝いをすると言って、空港の画像を送ってきた。北京へ到着すると、「これから夜は家族と過ごすため、返信が遅れると思う」と言い残し、数時間やり取りが途切れた。するとSNSには高級レストランの円卓で親戚の叔母らしき人たちと豪華な食事を囲んでおり、幼い少女たちがお祝いの歌を歌っている動画が投稿されていた。
この時点で私は「陳は詐欺師だ」と見抜いているつもりだったが、SNS上の行動があまりにリアルなので、「ひょっとしたら……」と陳を信じたくなる気持ちすら芽生えた。
大手企業のCEOならば朝から会議に追われる日だってあるはずだが、陳はかなりマメな男だった。
「おはよう。今日は忙しい?」