小さな違和感に気づけるか
「キッチンのスタッフは各々持ち場で、目の前のお皿に集中しているし、自分がいるかいないかで技術が落ちるなんてことはないから、いない時はおいしくないという評は、あまりないかなと思う。ただ、お皿の中がうまいこといけば、お客さんはみんな喜んでくれるか、というと、そういうものではない。大事なのは食べたお客さんがどう感じるか。
例えば、予約のお客さんとお連れさんの、どっちから先にお皿を置くのか、その皿を置くのも、自分が置くのか、スタッフが置くのか、そんな動作一つで『あれ?』と感じさせてしまうことがある。
大したミスじゃないけど、お客さんが『あれ?』っていう表情をした時は、自分がいれば、すぐその場でフォローする。でも、自分の手元だけしか見ていないと、お客さんの『あれ?』という表情の変化に気づけない。お客さんも、言うほどの不満じゃないから、口には出さない。けど、違和感は残る。そういうちょっとした違和感が重なった時に、自分が店にいないことへの不満になるんだと思う」

何が不満を生むのか、足りないところは十分わかっていたが、それを正す体力も気力も尽き果てていた米村シェフは、東京の閉店に続き、同じ年の12月に京都の本店も畳んだ。
けれども、2009年に始めたクッキーの販売は続けた。これだけは、絶対に止めるわけにはいかなかったのだ。
クッキーを販売するようになったのは、「接待の予約が、潮が引くように一気に消えた」2008年のリーマンショックがきっかけだった。