若手研究者に留学を勧める理由
山中 僕はコロナ禍が始まる前は毎月、サンフランシスコのグラッドストーン研究所に通っていたんですよ。
藤井 ずっと毎月ですか?
山中 10年以上、毎月。あそこに行って世界中から集まっている20代、30代の研究者と話していると、すごいんですよ。何か違う。僕なんかが考えつかないようなことを考えている。彼らと接していると、「本当にこんなすごいことが始まるかもしれない」とワクワクします。そんな感覚に毎月接しているから、それでずいぶんバランスを取っている感じがしますね。だから時差は大変なんですけど、続けているんですよ。藤井さんは海外になんて行く暇がないですよね。

藤井 はい、行ったことはありません。
山中 いつか行くと思いますけど、研究者は外国に行くべきだと僕が思うのは、国によって美意識や価値観が違うんですよ。外国に行って、それが初めてわかる。日米の研究者の違いを物語る話があるんです。
あるタンパク質を精製したい時、精製用カラムという不要なものを除去して、欲しいものだけが残るシステムを考える際に、まず1センチぐらいの小さいカラムを作ってうまくいった。でもそれだと精製できる量が限られて役に立たないからと、アメリカ人は千倍の大きさにした。けれども圧力のかかり方などが違ってうまくいかない。
どうしようかと悩んでいると、日本人は「何悩んでるねん。小さいのを千個作ったらええやん」(笑)。でもそれはアメリカ人の美意識に反するんですよ。エレガントに1個のシステムで作りたい。まぁ言ってみればブルドーザーです。日本人は職人。全然違う。
藤井 大きいのを1個か、小さいのを千個か、総量は同じですけど。
山中 そう。どっちがいいかわからないけど、僕たちは両方を選んでいます。基礎研究をしているアメリカ人は、みんな「これでひと花咲かせてやろう」とか「ベンチャーを作ってやろう」とか狙っているんですよ。
だからアメリカの科学者は非常に明るい。前向きです。職人の日本人とは全然違いますね。これもどっちがいいかは言えないけれども、ただ、科学全体が今はビッグスケールになったので、「一芸に秀でる」という日本人の特質は、これからは大変かもしれないですね。
だから、とくに若い人には海外に行ってほしいと思います。今はコロナの感染拡大のため、なかなか海外には行けないけれど、行けるようになったらぜひ留学にチャレンジしてほしいですね。僕は3年間の留学で新しい価値観を得ることができたし、海外から見た新たな日本を知ることができました。研究者として大きく成長できた、かけがえのない機会だったと思います。