コロナ禍で売り切れ続出したもの。マスクや消毒液もそうだったが、食品でいえば、小麦粉やホットケーキミックス、バターや生クリームなど、自宅でお菓子を作るための製菓材料が次々と売り切れていた。休校になって時間のできた子どもたちとお菓子作りをする家庭も増えたのだろう。そして材料だけではなく、製菓用の調理器具の中にも、コロナ前の3倍以上にもなる、爆売れしたものがあったという。

では、多くの人はいったいどんなお菓子を作っていたのだろう。調理器具をはじめ飲食関連のものがなんでもそろう合羽橋商店街の人気店・馬嶋屋菓子道具店によると、2020年に最も売れた製菓用の調理器具は「シフォンケーキ型」だったという。卵の泡立てさえ頑張れば、きれいに膨らみ、デコレーションに凝る必要もないので、初心者でも挑戦しやすいレシピだ。
では2021年度はどうだったのか。同じくシフォン型が人気かと思ったら、時代を表す別の商品だった。馬嶋屋菓子道具店の櫻井裕さんに話を伺った。

1952年創業の老舗菓子道具店
調理器具から料理サンプル、コックコートやメニュー看板、テイクアウト用の包装といったものまで、飲食関連のものが何でも揃う合羽橋商店街は、もともとは玄人向けの問屋街だったため、週末になると多くの店がシャッターを下ろす。そんな中、日曜日の午前中からお客さんで賑わう店がある。「お菓子型でないものはない」と多種多様な菓子道具を揃える、馬嶋屋菓子道具店だ。
創業は1952年、和菓子を作る木型や道具から始まったこの店は、バブル後の不景気に代変わりした、現社長の吉田友重氏によって、洋菓子用の道具も扱うようになり、今では洋菓子のための道具や機械が主流となっている。
入り口に立つと、地下0.5階から地上2.5階までの吹き抜けにそびえる「クッキータワー」に目が釘付けになる。

金網のタワーに飾られているのは、オリジナルのクッキー型。その数およそ1400種類というが、あまりに数が多く、また、単なる「犬型」「サンタクロース型」ではなく、「柴犬」や「サンタが笑っている顔」といったデティールにこだわったものが数多くあり、しかも、欲しい型がないときはスタッフが手作りまでしてくれるというので、正確な数は誰にもわからない。

バリエーションが豊富なのは、クッキー型だけではない。タルト型、食パン型なども、1つの型につき、材質、形、機能の違いで4~8種類あり、店全体では約4780種類の商品を扱う。中でも、コロナ禍でおうち時間にお菓子を焼く人が増えており、ケーキ型はよく売れたという。一番売れたケーキ型を聞くと、昨年までは1位シフォン型、2位パウンド型、3位マフィン型が不動だったが、今年はその牙城が崩れたというのだ。