第四。トウ小平は、尖閣諸島の領有問題は棚上げにし、後の世代が解決すればよい、という態度だった。習近平は、中国領だ、文句あるかという態度である。
第五。トウ小平は、最高指導者は2期10年で交替するルールを決めた。毛沢東の終身指導制に懲りたのだ。だから江沢民も胡錦濤も、2期10年で退いた。この2人は、トウ小平系の政治家だ。ところが習近平は、3期目以降も居すわる構えだ。トウ小平のルールなんか関係ない、である。
習近平が「許せないこと」
トウ小平は、台湾に対してどういう態度だったか。
いちばん譲れないのは、「ひとつの中国」の原則だった。「一国二制度」で、台湾は国ではなく地域である。ねばって、アメリカにこの原則を認めさせた。見返りはなにか。認めてもよいが、台湾への武力侵攻は許さないぞ。わかったな、と約束させた。そういう密約があったはずだ、と私は思う。

トウ小平は思った。人民解放軍はオモチャのようだ。アメリカ軍にまるで適わない。どうせ侵攻できないのなら、密約でも何でも結んで、交渉の実をとったほうがよい。中国にとって屈辱ではあるが、我慢したのである。
台湾に侵攻してはいけない。この密約は、中国の党中央の申し送りになっている。屈辱的な不平等条約である。
習近平は我慢がならない。トウ小平は、国を裏切ったではないか。だから、香港でもそうしたように、台湾でもトウ小平のやり方を覆して、武力侵攻するに違いないのである。後編記事『習近平の「焦り」…毛沢東、トウ小平には「できなかった台湾問題」に取り組むワケ』では、さらに習近平が台湾にこだわる理由について見ていこう。