2021.12.09
# 人間関係 # AI

藤井聡太「人間が囚われてきた“常識”という名のブレーキを、AIが外してくれる」

藤井聡太×山中伸弥 スペシャル対談(5)
分野は違っていても、過酷な競争の世界で最前線で前人未到の挑戦を続ける藤井聡太棋士と山中伸弥教授。彼らの日常の準備、学び方、メンタルの持ち方、AIとの向き合い方…。日々努力を続けるすべての人へ贈るメッセージを『挑戦 常識のブレーキを外せ』からピックアップしてお届けします。

AIで自由度が上がる

山中    プロ棋士とAIの対戦で忘れられない場面があるんですよ。NHKの特集番組で観たのですが、佐藤天彦名人がAIと対局した時(2017年4月)、先手のAI(「ポナンザ」)の第一手が、素人の僕から見ても「えーっ!」というようなとんでもないところに指していました。

それを見た名人が頭を抱えて、次にどう受けていいかわからない、という感じになっていました。あの第一手は……。

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藤井    初手3八金です。金が銀の上に上がる。

山中    そうそう。江戸時代から残っている棋譜を見ても前例がないような奇手だと思います。

藤井    コンピュータがすごく強くなったことで、序盤で定跡とされていた指し方以外にもいろいろあるとわかってきています。たとえば「居玉(王将が最初の位置から動かない状態)は避けよ」という将棋の格言があるように、人間はそうしたパターンで考えてしまう傾向がありますが、コンピュータは居玉でもいい形をひねり出してきたりするんです。

山中    これは羽生さんから聞いたことなんだけど、棋士にはなぜかわからないけれど「ここに指したくなる」「ここに指さないと気持ち悪い」という美意識というか美学があって、それは局面を読み切ってというよりも、感覚的にどうしてもそこに指したくなるらしいんです。そうなんですか?

藤井    ええ、そうですね。人間には必ず美しさに対する感覚はあると思うので、とくに意識はしていませんが、自分も詰将棋を多く解いてきたので、そうした感覚は潜在的にあるかもしれません。

山中    逆に言うと、その美意識に合わない手を本人は指さないし、相手が指すと、すごく気持ち悪い。それはたぶん、自分が今までずっと培ってきた経験や感覚に基づくんだと思います。そういう意味では、AIはものすごく気持ち悪い手を平気で指してくる、と。

藤井    確かにAIは前後の流れではなく、その局面を点として捉えて答えを出してくるので、自分も最初は違和感を感じることも多くありました。ですが、局面を進めてみると、なるほどと思わされることも多くて、やはり勉強になります

今のAIは強化学習によって、人間とは違う価値観、感覚が進歩してきたように感じます。それまで人間が気づかなかった手や判断を示されることもあるので、今までの価値観が刷新されてきて、むしろ自由度が上がったという感じがします。自分としてはAIを活用することで自分の将棋の新しい可能性を感じ、それで自分の棋力をより高めることができると思っています。

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