2021.12.10
# AI # 読解力

ノーベル賞受賞者・山中伸弥教授の想い「なんとか、死ぬまでに研究で人を救いたい」

藤井聡太×山中伸弥 スペシャル対談(6)

何も挑戦しないのがいちばんの失敗

藤井    iPS細胞を発見されるまでの過程で、何か大きな影響を受けたということはあるでしょうか?

山中    藤井さんのように僕も本を読むのが大好きで、『仕事は楽しいかね?』(デイル・ドーテン著)という本からすごく影響を受けましたね。人生がうまくいかない普通のビジネスマンが、起業家として成功して大金持ちになった老人から、仕事を楽しむ方法や人生の成功法則を学んでいく話です。

仕事は楽しいかね? (きこ書房)

大事なことは「試す」ということで、世の中の成功者は誰よりも「試す」を繰り返してきた。どんどん新しいことに挑戦しなさい。だいたいうまくはいかない。でもともかく挑戦しないと何も始まらない。10回やって9回が失敗でも、残りの1回で成功するかもしれない。コツコツ努力を続ければ、10回に9回の失敗が、8回に減るかもしれない。失敗しても努力を続けることが大切だ、結果を楽しめ、と。

たとえば、ある薬を作ろうと一生懸命混ぜていたらシロップができ、炭酸と混ぜて飲んだらおいしかった。それがコカ・コーラになった。丈夫なテントを販売していたけど、探鉱者のためにそのテント生地から耐久性のあるズボンを作ることを思いつき、そのズボンが後々若者に大受けした。それがリーバイスのジーンズ。

iPS細胞もたぶんうまくいかないだろうけど、できることはいろいろやってみようという感じでやっていたら本当にできた。そこにはじつはあの本の影響があるんです。

藤井さんにはいろいろ試してもらって、将棋の歴史上、誰も指したことがない新しい手、びっくりするような手をぜひ指してほしいなぁ。

藤井    誰も指したことがない手ですか……。自分の場合、「どうしたらもっと強くなれるか」を考える取り組みを意識したのは、わりと最近というか、ここ何年間のことなんです。もっと前からそういうふうに取り組んでいれば、と思うところはあります。

ただ、結果的にあんまりそういうことを考えずに、詰将棋などを楽しんでやっていたことが、自分の基礎として生きているところもあると思うので、何が良かった悪かったかは、はっきりとはわからないことなのかなと感じています。

山中    これからの人生、良いこと、悪いことをたくさん経験することと思います。若いころはどんどん失敗していい。失敗から学び、たくさん経験をするからこそ目標が見つかります。うまくいかないことや、一見良くないことが起こったその時こそ「いや、これはチャンスかもしれない」と思う。

一方で、調子がいい時は、「次は大変なことが起こるかもしれない」と用心する。調子がいい時は用心して、調子が悪い時は「次にどんないいことが起きるだろう」と楽しみにする。一喜一憂しない。失敗を恐れず挑戦する。やらずに後悔するよりは、やって失敗するほうがいいですよ。失敗することは全然恥ずかしいことじゃないから。何も挑戦しないのがいちばんの失敗だと思います。

  • 『成熟とともに限りある時を生きる』ドミニック・ローホー
  • 『世界で最初に飢えるのは日本』鈴木宣弘
  • 『志望校選びの参考書』矢野耕平
  • 『魚は数をかぞえられるか』バターワース
  • 『神々の復讐』中山茂大