当時の安倍晋三政権は、中国からのインバウンドを重んじて、中国政府が武漢を封鎖した1月23日以降も、春節で押し寄せる中国人観光客を水際で食い止めようとしなかった。状況を楽観視していた。空港の検疫は旅行者の自己申告に頼り、ほぼ野放し状態がつづく。
2月1日以降、やっと「湖北省発行の中国旅券を所持する外国人」らの入国が拒否されるようになった。この間に中国人旅行客の会食や、新年会の宴席を介して東京都内でクラスターが発生している。

厚労省もまた、事態を重く受けとめていなかった。感染者の判定について、「武漢市を含む湖北省への渡航歴がある」または、その疑い患者との「接触歴がある」ことにこだわり、保健所の対応を縛った。保健所は、発熱や呼吸器症状のある人に対しても、武漢との関りがなければ、疑わしくてもPCR検査の対象から外す。実際にコロナ疑いの肺炎患者を受け入れた病院は、保健所に検査を依頼しても拒まれ、都に不満をぶつける。
東京都は、2月3日、小池百合子知事の名で、加藤勝信厚労大臣(当時)に「緊急要望」を出し、「無症状病原体保有者からの感染」に言及し、幅広くPCR検査を行うよう求めた。
しかし、政府は無症状者への検査に消極的だった。3日後、感染症専門家のアドバイザリーボードは、「無症状者の入院により感染症指定医療機関の負担が増大する」として「無症状者に対するPCR等検査の実施に否定的な見解」を厚労省に伝えている。厚労省は、無症状者からの感染を認めれば「国民の不安」を煽り、「パニック」を引き起こすという理由で、PCR検査を積極的に展開しようとはしなかった。