「あやしい」と思っていた経営者が「憧れ」の対象に
藤野 もともと私は起業家とは程遠い考え方を持っていました。起業にも投資にも興味はなくて、裁判官だった祖父の影響もあって、裁判官になろうと思っていました。大学在学中には司法試験に受からなかったので、大学の教官に「金融機関に行って、キャリアを積んでお金をためるのがいいのではないか」と言われたことがきっかけで、大学卒業後に野村アセットマネジメントに入社しました。法曹界は金融に疎い人も多いので、将来的に自分の強みになるかもしれないという感覚で入社したのでした。
守屋 しかしそこから金融の仕事が楽しくなっていったのですね。

藤野 そうです。入社当時の私は「大企業がすべて」と思っていましたので、最初に中小企業に対応する部署に配属された時、じつは少しモチベーションが落ちてしまいました。中小企業の経営者達に「あやしさ」すら感じて、「いつか自分が法曹界に進んだら法で裁くことになるかもしれない」などと思っていました(笑)。しかし、結果的にはこの中小企業と向き合う仕事が非常によかったのだと思います。
毎日2~3名の社長が来社して、1時間半ほど、ゼロからどう自分たちに付加価値を付けるかを話していく。そこに、自己決定のもと会社を自分でデザインするという意志を感じたのです。みなさん、お客のことをとことん考えて、商品やサービスを通じて世の中に貢献していました。そうして法人税や消費税、所得税も支払っている。日本を支える税金のほとんどは会社からきているんです。私は次第に起業家や経営者は国の礎なのだという考えに至るようになりました。
3年ほど経つと、その自己決定する姿への思いが、「あやしさ」から「憧れ」に変わっていきました。上司の顔色をうかがったり、会社から言われたことに従ったりするのではない、自分の意志で主体的に生きる、言ってみれば「起業家的に生きる」ことに魅力を感じました。