2021.12.18

「1億円の壁」問題が、これほどまでに“賛否を巻きおこす”根本原因

金融所得課税強化の問題点はどこに?
鷲尾 香一 プロフィール

ところが、所得格差よりも深刻なのが、金融資産格差だ。ある意味、格差の実態とは保有する金融資産残高にあると言ってもいいだろう。

それは、全国家計構造調査の金融資産残高(貯蓄残高)のジニ係数を見ると、94年に0.538だった金融資産による格差は拡大を続け、19年には0.640に上昇しており、金融資産により格差が拡大したことは“一目瞭然”だ。(表2)

表2

深刻なのは、金融資産残高がゼロの世帯が10%もあることだ。100万円未満の世帯は23%を占める。金融資産残高は“格差の象徴”でもあり、格差の固定化を招く要因にもなる。

「1億円の壁」が生じる理由

こうした点から、岸田首相は21年9月の自民党総裁選に向け、金融所得課税の強化を打ち出した。ところが様々な問題が指摘されたことで撤回し、税制改正には盛り込なかったが、再び、継続検討を指示した。

まず、金融所得課税を簡単に説明しよう。金融所得課税とは、利子所得、配当所得、株式等譲渡所得への所得課税のことを指し、一律 20%の比例税率での分離課税となっている。正確には現在、復興特別所得税が課されているため20.315%となっている。

 

一方、給与などの労働所得は所得金額に応じて 10~55%の累進税率が適用される総合課税となっている。ただし、上場株式の配当など一部配当所得については総合課税を選択することもできる。

つまり、所得の低い層では総合課税の税率は低く、金融所得への分離課税の方が高くなる。一方で高額所得者層では、労働所得の総合課税の税率が、金融所得への分離課税を上回ることになり、労働所得よりも金融所得にかかる税率が低くなる。

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