2021.12.15
# EU # 東欧 # 戦争

欧州の厄介の種、ウクライナ迷走の裏舞台と落とし所をすべて解説する

緩衝国というロシアの狙いは実現するか
河東 哲夫 プロフィール

西側のウクライナへの深い不信

ウクライナの政治家にとっては、「クリミアとウクライナ東部の回復」が最大のイシューであり続ける。まだウクライナ軍が弱体だった2014年、Debaltseveという所で、ロシア側勢力に壊滅的な敗北を喫して、「ミンスク議定書」という気の乗らない和平案を吞まされた。

これは、ウクライナがまず憲法を改正してウクライナ東部に強い自治権を与え、その上で選挙をして政体を固める、そうすればロシアは兵力を引く、というもの。実質的にウクライナ東部の分離を認めるものだから、ウクライナ政権はこれを反故にすることを至上命題とする。

一方、米国やEU諸国には、国内の汚職を放置したまま西側に依存しようとするウクライナに関わる気が起こらない。この数年「ミンスク議定書の実施」を決まり文句にして、ウクライナからの支援要請をのらりくらりと逃げてきた。

それは今も変わらない。6月のNATO首脳会議は、ウクライナのNATO加盟に言及しながらも、その準備段階として必要なMAP(加盟への行動計画)を作成しなかった。バイデンも7日のプーチンとの電話会談の後で、米国は武力でロシアに対抗することはまだ考えていない、と公言している。

ウクライナは必死だ。ゼレンスキー大統領は2019年大統領になって直後は、宥和的なことを言っていたのだが、今ではウクライナ東部を奪い返す姿勢を強めている。

この1年、土地民営化など、IMFがその対ウクライナ支援の代償として求めてきたことを実現し、親ロシア勢力の筆頭格の政治家メドヴェドチュクを逮捕し、最近ではウクライナの経済と政治を握ってきた寡占資本家たちの力を奪う法律を採択している。

 

そしてクリミア併合時には存在していないも同然だったウクライナ軍――前線に送られた兵士が路線バスに乗って故郷に帰ってしまったというような話もある――は、GDPの4%を占める国防費、そして米欧などからの兵器支援、そして訓練に支えられて、今では20万を数える勢力に成長している。

最近はトルコ製のドローンで、東ウクライナの停戦ラインを飛び越えて、親ロシア勢力に攻撃を加えてもいる。このウクライナ政府軍が現在、ドネツク方面に12万5000人集結しているとロシア側は言い、ウクライナはそれを否定していない。

関連記事