終わらない不動産バブルの果て
「イカゲーム」の中でサンムン洞や考試院の対比として登場するのが「アパート」だ。日本と韓国ではアパートとマンションの概念が逆転していて、日本でいう高層マンションを韓国ではアパートと言い、逆に韓国での「マンション」は日本のアパートのような5階以下の多世帯・連立型の低層住宅を指す(「ビル」とも言う)。
ギフンの別れた妻は再婚してアパートに住んでいる場面が描かれているが、これは彼女(と娘)がギフンとは違って低所得層から脱して、中産階級になったことを意味している。
では、なぜギフンやサンウら低所得者はアパートに住めず、未開発の下町や映画「パラサイト」で描かれていたような半地下、もしくは考試院のような狭小住居を選ばざるを得ないのであろうか。これは韓国全体、中でもソウルを中心として終わらない住宅・不動産バブルに起因している。

上のグラフは2011年以降の韓国全体の住宅売買価格の増加率を表しているが、2019年を除くと毎年増加傾向が続いているのが分かる。
ソウルでのアパートの平均取引価格は12億ウォン(日本円で約1億1000万円、2021年)で、東京23区の新築マンションの平均価格(7712万円、2020年)をはるかに超えている。大卒社会人の平均初任年俸が3382万ウォン(約325万円)なので、これでは生活水準を上げるためにアパートを買うというのは至難の業としか言えない。
しかし、以前の韓国では住宅を買えるほどの金額を持っていなくても、ソウルのアパートで暮らせる方法はあった。それは、韓国の独特な賃貸契約方式である「チョンセ(伝貰)」という制度のおかげであった。
チョンセは、借り手が住宅の売買価格の50~80%を家主に預託して、その代わり月々の家賃は払わない賃貸契約のことある。この制度の一番の特徴は、契約期間が終わる際に、預けたチョンセの全額を返還してもらえるという点にあった。