満足は「比較」によって生まれる
ドラッカーが役員などの高額報酬に否定的なのは、「人間の金銭による満足感は比較によって生まれ、同僚の給料が高くなれば、自分も昇給しないと満足できないという『無限の欲望のループ』に陥る」という点にもある。実際、「あのCEOがあれだけもらっているんだから、僕はそれ以上もらわなきゃ嫌だ」というのが、現在の一般的経営者の姿である。これは一社員についても同じだ。
実のところ、行動経済学では、資産の絶対額と幸福度の相関関係は見いだせない。むしろ、いくら増えたか、あるいは周りの人間より多いか少ないかに左右されるのだ。だから、格差をつけても、人間はそれ以上の格差を求める。
また、手足を失うような事故に遭遇した人、天候の悪い地域に住んでいる人々の幸福度は、普通の人とあまり変わらない。もちろん、事故、転居当時の幸福度は下がるのだが、人間は「環境」に適応する生物で、与えられた環境の中で「幸福」を見つけるのである。
100億円の年収をもらっても、ライバル会社の社長が年棒200億円であれば、憤慨するのが人間である。また、自分の給与が500万円なのに、自分と大差ないと思っている同期が505万円であれば、少なからぬ嫉妬心を感じるはずだ。金銭を中心とした「比較による満足」は「無間地獄」といえる。